第1回 リアルワールドデータからのエビデンスを読み解く

EBM(Evidence Based Medicine)の実践のために統計は非常に重要なものです。しかし「日常診療の中で『統計』を具体的にどのように活かしたらいいかわからない」という声も少なくありません。そこで、大阪医科薬科大学研究支援センター医療統計室長の伊藤ゆり氏による「正しく扱い味方につける!『統計』のミカタ」の連載を開始します(毎月5日号掲載)。

日常診療の中で統計を活用したいというニーズにお応えすべく、5回シリーズで執筆させていただくことになりました。

日常診療でEBM(Evidence Based Medicine)を実践するために、正しい情報に基づいた診療をすることと、ご自身のリサーチクエスチョンに基づく研究の実施という2つの視点がお役に立つかと思い、そのような内容でこのシリーズを構成したいと思います。

つまり「正しく論文・研究を読み解くうえで必要な統計的な視点」と「ご自身が研究を実施する上で必要となる統計手法のエッセンス」を紹介していきたいと思います。

第1回目はリアルワールドデータ(以下RWD)からのエビデンスを読み解く上での注意点について紹介します。

新規治療法の開発は無作為化比較試験により行われていますが、試験の際の対象は比較的若年で、合併症がないなど、非常に狭いターゲットとなっています。

実臨床で治療を行う場合、試験対象とは条件が異なる患者に適用しています。治療が普及していくと多くの対象に治療が行われ、その人々の転帰がどうなったかという結果も出てきます。そのようなRWDから得られたエビデンスに関心が集まっています。

研究を目的に作成されたデータではない

RWDは現実社会を反映する夢のビッグデータという印象がありますが、実際にはそんなに甘くありません。

多くのRWDは研究をすることを目的として取られていないという点に注意が必要です。レセプトデータなどのように日々蓄積されるデータです。レセプト情報で把握できる病名の確からしさや正確な転帰の把握の困難さなど多くのハードルがあります。

ただし、対象とする疾患や治療の特徴によっては、例えば一定割合のサンプルをカルテと照合して整合性を確認するなどの検証作業を行うなどすれば、質の高い研究の実施が可能なものもあります。

データの背景などを確認する必要がある

RWDには日々集積されるデータの他に、意図して収集する疾病レジストリデータがあります。

「がん登録」は疾患レジストリデータの代表例であり、日本の住民に発生したすべてのがんを登録する悉皆調査です。人口動態統計や住民基本台帳を用いて、正確な予後も把握しています。日本全体のがんの罹患率や生存率を把握し、がん対策に活用するために収集されていますが、臨床研究への活用も期待されます。

例えば、希少がんの患者背景や生存率など、全国規模のデータで初めて明らかになることもあります。また、超高齢者に対する治療内容と、その後の転帰などRWDでなければわからない研究課題にも対応できます。

図 RWDを扱う場合に確認すべきこと

最後に、RWDを扱った研究において、図のように原因と結果となる情報が結びついているデータかどうかを確認する必要があります。

諸外国においては、レジストリデータと診療情報やレセプトなどをリンケージすることで、情報の確からしさと、詳細さを併せ持つデータセットによる臨床疫学研究も進んでいます。日本でもこのような研究が進められるような枠組み整備を行う必要があります。

大阪医科薬科大学
研究支援センター
医療統計室長
伊藤 ゆり 氏

〈いとう ゆり〉

大阪医科薬科大学研究支援センター医療統計室長として、学内外の研究の統計的支援を行う。専門分野はがん疫学・保健医療統計。公的統計を用いた記述疫学研究により、がん対策や健康格差に関する研究に従事。近著に健康格差を見える化したThe Atlas of Health Inequalities in Japan(Springer 2019)、がんの格差について分担執筆したHealth in Japan(Oxford University Press 2020)。趣味は釣り、食べ歩き。屋内完全禁煙の飲食店応援サイト「ケムラン」を運営。


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