〈最終回〉都構想がなぜ必要? 本当に「説明は十分」か

ノンフィクションライター 松本 創

「法定協議会で36回も議論し、その間には選挙もあった。大阪都構想の説明は十分に尽くしてきたし、今後もネットなどを活用してやっていく。しかし立場によっては、いくら説明しても足りないと言う人もいるだろう」

8月28日の大阪府議会で「特別区設置協定書」、つまり都構想の設計図が可決された直後、吉村洋文知事は囲み取材でこう述べた。いや、コロナ禍で住民説明会はまったく開かれず、広報紙や新聞報道があるぐらいで何が十分な説明かと思うが、それ以上に気になるのは、「どうせ反対派はわからないだろう」と切り捨てるような物言いだ。なので、問うてみた。

特別区設置協定書が府議会で可決後、記者団の取材に応じる吉村知事

「説明を尽くすと言うが、大阪市の広報紙が露骨に賛成の立場で記述されていたとの(毎日新聞の)報道もある。本当に中立で公正な説明ができるのか」

返ってきた答えは相変わらず、「反対派にはそう見えるのだろうが」。いや、市が委嘱した複数の特別参与が「中立性を欠く」と修正を求めたのだが……。

そう、維新の首長は、彼らの主導する大阪市廃止・分割計画を受容する人しか相手にしない。そもそも不必要だろう、デメリットばかりじゃないかという多くの疑問や懸念や指摘は「反対派」と括られ、一蹴される。「見解の違いです」で強制終了させられる。

解消されない根本的な疑問

制度の詳細以前に、根幹に関わる疑問が、いまだ何ら解消されていない。

「無駄な二重行政」とは何か。病院や図書館や大学が二つあることか。それは大都市の住民が使える施設の選択肢が増えることで、むしろメリットではないのか。前々回、廃止された住吉市民病院に触れたが、地域からは「事実上、産科・小児科の空白地帯になった。廃止は間違っていた」と声が上がっている。

「府市が一体になれば経済成長できる」という主張の根拠は何か。維新が成長戦略に掲げるIR計画がコロナ禍で苦境に瀕していることも、前々回に述べた通りだ。大阪の有力候補である米カジノ企業MGMは、1万8千人もの大量解雇に踏み切ったと最近報じられた。大阪進出どころではないんじゃないか。

市を4つに分割した特別区の行政予算が、単純に現在の4分の1で収まり、うまく回ると本当に考えているんだろうか。公選区長と区議会を置けば、その分経費もかかるし、意見や方向性の取りまとめも難しくなる。また、現行の区役所は残しつつ、市役所を合同庁舎のように使うという。一体何がしたいのか。

市の広報誌の都構想の説明。制作過程では「維新の広告」と指摘され、たびたび修正されたという

地方行政制度のプロである総務官僚たちの見解を最近伝え聞いた。「行政的には無意味。税収やコスト面もデメリットばかり」「でも、地方自治の原則があるから何も言わないだけ」と話す人ばかりだという。

これらの疑問や懸念を、維新の議員たちも理解できないはずはない。なのに、なぜそこまで都構想にこだわるのか。いろんな人に聞くのだが、そこがどうにもわからない。

「一度走り始めたから、もう止まれないのでは……」。維新という組織の性格を指摘する、そんな声が印象に残る。市民はぜひ立ち止まって考えてほしい。

―都構想の連載は今号で終了します。この連載をまとめたリーフレットを作成しました。お求めはTEL06-6568-7721で新聞部まで。

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