【リレートーク「人を診る」最終回】『大阪保険医新聞』2017年5月25日号1面より
- 2017/5/31
- 日常診療経験交流会
橋本クリニック (守口市) 橋本 忠雄
「患者さんの幸せのため」医師は〝診る〟
先日、ある大学の先生から手紙を貰った。その中に、こんな記述があった。
~私の受診する病院の医師は診察中、ずっとパソコンを向いたまま「どうですか」と言ったきり、私の面をみません。「医療ポライトネス・ストラテジー理論」を学んでほしいものです~
私も外来で同じような体験を、患者さんから聞くことがある。これなど、まず医師と患者さんとの人間関係が出来ていないのだから「人を診る」どころではない。
旧い話しで恐縮だが、私が神経内科を始めた頃(1970年)には、まだCTもMRIもなかった。だから、脳出血と脳梗塞の鑑別さえ、簡単な事ではなかった。
患者さんに肉薄し、病歴や診察所見でまずは診断することが求められた。だから「人を診る」しかなかったとも言える。
しかし、今は便利で有用な機器が次々と開発され、診断は格段に容易になった。が、その分患者さんの顔を見る必要が減ったのかもしれない。
正確な診断は、医療の第一歩にすぎず、医療は患者さんとの全人的な付き合いの中で、進行していくものである。
浜矩子さんの言葉に「経済は、人間の幸せの為にある」というのがある。
まさしくこの言葉は、医療にも当てはまる。私たち医師は、患者さんの幸せの為に働いているのである。それなら「医療ポライトネス・ストラテジー」なる理論に言及するまでもない。「患者の緊張を和らげ、前向きにするユーモアも交える。患者がジョークを言ったら、それに応じる」、要するに患者さんとより良い関係になれるように模索するのは当然である。
そして患者・家族との信頼関係を築くために重要なのは、情報の共有、そして合意の形成であろう。協力・協同の関係ができれば、両者が納得できる医療を実践できるのではないだろうか。
最近のAIの発展は目覚ましい。これからの30年間で、コンピューターの計算能力とメモリー能力が、更に現在の100万倍に、IQが10,000になるとも言われている。アインシュタインのIQが200とすれば、AI恐るべしである。また、Singularityが2045年とも予想されている。
その頃の医療は、どんな形になっているのだろうか。私には想像もつかないが、AIを有効に使いこなすとともに、やはり、医師には哲学が要求されることになると、思うのである。