【リレートーク「人を診る」④】『大阪保険医新聞』2017年5月5・15日合併号1面より

笹川皮膚科 (城東区)笹川 征雄

皮膚を診るは「人を診る」

皮膚科医は「皮膚を診ること」が主な仕事(技)であるが、アドヒアランスを高め、トラブルを回避するためには「人を診る」ことが必須となっている。

日常診療では、今もステロイドバッシングの影響(ステロイドは恐い薬、ステロイドを処方する医師は悪い医師)が続いているが、皮膚病治療の要(命)であるステロイド外用剤を処方するに当たっては「人を診る」(ステロイド使用の可否、キャラクターを見抜く)ことが今や不可欠である。つまり「皮膚病を診ること」は「人を診ること」と同義語でなくてはならない。

しかるに「先生はパソコン画面を見て私を見てくれない」という「人を診る」ことが疎かになっているとの印象を与えていることは否めない。

内科領域では聴診器の医学的有効性が論議されたが、皮膚科ではルーペの有効性については否定されたことはない。今は、拡大倍率3~5倍のルーペに代わって、拡大率30倍前後のダーモスコープという機器が登場して、皮膚科診療では必須のアイテムとして頻用されている。

しかし「人を診る」ことを考えるなら、易者が使っている大型ルーペも捨てたものではない。私は、手の平大の大型ルーペをダーモスコープと併用している。例えパフォーマンスと言われようが、患者さんからは「先生はしっかりと見てくださっている」との評価を受けていると確信する。

さて今、遠隔診療が話題となっているが、政府案では「在宅アトピー性皮膚炎」が遠隔診療の対象として俎上に載せられている。「在宅アトピー性皮膚炎」の定義が定かではないが、医療費削減が本音と言われている。歩けない在宅患者から、仕事が忙しい、海外旅行で忙しいまでも拡大解釈されると皮膚科診療の危機である。民間での遠隔診療の事業化の動きもあり「ヒポクラ」(皮膚科・眼科)として会員数を増やしている。

現在、ヒポクラの医師会員数は1万人、皮膚科では約40名の皮膚科専門医が対応している。現在無料(補助金)で運営されているが、有料化で100億円規模の市場になると見込まれている。たった2枚の二次元の写真で皮膚疾患がどこまで解るのかという批判もあるし、刻一刻変化する皮膚病変や副作用の発現にどこまで対応できるのかという懸念もある。なにより「人を診る」ことができない。

この流れを受けて日本皮膚科学会では作業チームを立ち上げたと聞く。遠隔診療を全否定するわけではないが、光だけでなく、影の部分にも注視して是々非々で行きたい。

日常診療経験交流会では、記念講演「医療におけるAI」が講演されるが、病に倒れ、看護師さんに脈を取ってもらった時に得られる手の温もりと安心感は「AI」では得られないであろう。


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