診療所〝狙い撃ち〟改定で深刻な影響 6回連続のマイナス改定に断固抗議-2024年診療報酬改定答申を受けて

中医協は2月14日の総会で「令和6年度診療報酬改定」に係る答申を行った。今回は医療、介護、障害福祉サービス等報酬の3つが同時に改定される年にあたり、診療報酬改定も大幅な改定となった。

6回連続マイナス改定

診療報酬改定は本体0.88%引き上げ、うち医科は0.52%引き上げとされた。うち、40歳未満の勤務医師等、事務職員の賃上げに資する措置分0.28%程度、さらに看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種については、24年度にベア+2.5%、25年度にベア+2.0%を実施していくための特例的な対応として0.61%引き上げる一方、生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化のために▲0.25%とされた。さらに薬価・材料価格を合わせた改定率は▲1.00%となり、結果としてネット(全体)では2014年改定から6回連続のマイナス改定となった。

この結果には、比較的経営状況が良い施設が回答する傾向のある医療経済実態調査や、財政審による診療所経営が良好であるとのデータをもとに「財政健全化の必要性がこれまで以上に高まるなか、診療所の診療報酬単価を5.5%引き下げる(マイナス改定とする)べき」との趣旨の提言による影響が色濃く出た。

今次改定は「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応」「全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応」「医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現」「社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和」が基本方針に掲げられた。

人材確保危ぶまれる「臨時的賃上げ」改定

「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」を重点課題に掲げ、医療関係職種の賃上げ実施のために初・再診料や入院料の引き上げ、そしてベースアップ評価料による臨時的な扱いとして評価したが、他の職業は春闘で昨年3.58%、今年は5%以上の賃上げを目指すとされているにもかかわらず、医療関係は2.5%に抑制された。これでは優秀な医療従事者が集まらない。医療の質の低下を懸念する。また、ベースアップ評価料の実績報告の仕組みや書面は複雑にならないようにすべきだ。今回は臨時的にベースアップ評価料という形となったが、看護師をはじめ関係職種の技術料は別途診療報酬で評価すべきであると考える。

長期収載品の選定療養 保険外しの広がり懸念

長期収載品の保険給付の在り方の見直しとして、選定療養の仕組みを導入し、後発医薬品の上市後5年以上経過したものまたは後発医薬品の置換率が50%以上となった長期収載品を対象に後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の3までを保険給付(一部負担金あり)の対象にし、それ以外も患者負担とすることを決定した。イノベーション推進の財源を長期収載品の患者負担増によって捻出することは問題である。新薬の恩恵は国民・社会全体に及ぶ以上、仮に財源が必要というのであれば、患者負担ではなく、公費(税金)で対応すべきである。また、患者負担が増えることにより、適切な薬を選択できなくなる可能性があり、医師が必要と認めた場合や薬剤不足の際は対象外とされているが、現在のところ運用は不明である。医師の処方権を侵害するものとならないようにすべきである。

国策の結果引き起こされた後発医薬品の供給不安定がいまだ解消されていない状況にもかかわらず、後発医薬品に誘導するような保険外しの施策は、タイミングとしても最悪である。選定療養の仕組みを活用して行ってきた180日超入院の保険外しなど、患者負担増額と保険給付範囲の縮小がさらに実施される形となり、保険給付外しがすすむことになってはならない。患者に安全・安心で必要な医療を保障するうえでも、薬剤自己負担増を含むあらゆる保険給付削減策に強く反対し、実施予定とされる10月までに必要な手立てを打っていく。

低報酬で管理を強要する 生活習慣病管理料の再編

特定疾患療養管理料から高血圧、糖尿病、脂質異常症を除外し、生活習慣病管理料で算定するように誘導する。生活習慣病管理料をⅠとⅡに再編しいずれも月1回の算定とする。この管理を受けている患者に対して行った外来管理加算を包括し算定できなくする。

そもそも管理とは別に丁寧な診察を評価してきた外来管理加算を包括し、算定できなくすることは不合理である。また特定疾患療養管理料の対象病名が外れたことから特定疾患処方管理加算も算定できなくなる。療養計画書を簡素化するというが、作成及び患者への交付と署名は求められる。専門医への紹介や連携に係る診療情報提供料Ⅰや連携強化診療情報提供料も包括したままである。

そして、月に1回以上の総合的な治療管理を行う要件を廃止することと表裏にあるリフィル処方箋の発行、または長期処方を行っている旨の院内掲示が要件化される。受診のない期間を想定し患者の管理を行っていることからみれば、Ⅱの333点は低すぎる。このような受診機会を減らしながら低診療報酬で三大疾患患者の管理をプライマリーケアを行う診療所に負わせる。結果として医療経営が疲弊し、地域医療が弱体化し国民の健康が守れなくなることが懸念される。

「かかりつけ」医機能のさらなる要件強化

(認知症)地域包括診療料・加算に、介護支援専門員・相談支援員との相談に応じる等の実績(医師による対面・ICTでの相談又は地域ケア会議への参加)が要件化された。また、認知症に係る適切な研修受講に係る努力義務要件や市区町村が実施する認知症施策への協力実績要件追加、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえた意思決定支援に係る指針作成の要件化などが追加され、点数は一定引き上げられる。

これまでも中医協の議論で(認知症)地域包括診療料を中心に「24時間対応薬局との連携」「常勤医師の配置」などの施設基準の厳しさから届出や算定の伸び悩みが指摘されていた。さらなる要件の強化は、医師・医療機関に負担増を強いるものであり「かかりつけ」医機能を持つ医療機関を狭くめ、理想的な患者と医師との関係を築きにくくすることが懸念される。

在宅支援診療所の負担増 在宅医療めぐる改定項目

厚労省はICTを活用した在宅療養支援診療所の医師を中心とした多職種連携の推進を検討している。

在宅で療養する患者を支える上で、多職種での診療情報の共有はすでに数多く実践されている。ICTに限定しており、今後の「義務化」への懸念もあるが、日常診療の工夫に対して点数をつけたことについては、評価したい。

その一方で、在宅療養支援診療所の負担がますます大きくなる改定になっている。在宅療養支援診療所以外の診療所と連携し、夜間など支援診以外の診療所による対応が困難である往診を〝肩代わり〟する役割が明確に打ち出された。ただでさえ、自身の患者への24時間対応に疲弊する医療機関が、こうした方針に協力するだろうか。医師が在宅療養支援診療所を返上した場合、ますます在宅医療提供の確保が困難になるのではないか。

弊会の地域医療対策部では常々、「外来患者が通院できなくなっても、かかりつけ医が在宅医療を提供できるような制度に」と訴えてきた。最大のネックである24時間対応を、在宅療養支援診療所に押し付ける形では、在宅医療を担う診療所が増加するとは考えられない。

訪問診療回数による減算が在宅医療破壊

「訪問診療を効率的に行う医療機関」に着目し、過去3カ月で平均12回以上の訪問診療を行う医療機関に、在宅専門診療所と同様の減算規定を盛り込もうとしており、必要な医療が制限されることを危惧する。「訪問診療を効率的に行う医療機関」は地域医療における役割も定着してきている。改定を機に撤退となれば、在宅医療の提供体制への影響が計り知れない。

在医総管と施医総管で さらなる細分化が検討

在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料の単一建物診療患者の人数をさらに細分化することも問題である。基本的には施設医療を狙い撃ちにしたものと見られる。施設医療は度重なる改悪によって、医師を確保することも大変になっている。また、実際に施設に訪問する医師からは、「施設の職員から昼夜を問わずに連絡がある。本当の24時間対応は施設入居者に対して行われている」という実態も寄せられており、むしろ点数を引き上げるべきではないか。

在宅医療の担い手は増加する患者に追い付いている状況とは言えない。厚労省は規制強化の方針を改め、在宅医療提供体制のさらなる確保について、方向転換すべきだ。

医療DXを推進するなら補助金ですべき

マイナンバーカードの保険証活用で得られる薬剤情報等を診察室等でも活用出来る体制を整備するとともに、電子処方箋および電子カルテ情報共有サービスの整備、マイナ保険証の利用率を要件に、医療DXを推進する体制を医療DX推進体制整備加算で評価した。この医療DXの推進は、患者の治療と直接関係ないため、診療報酬での評価を行うより補助金で対応すべきと考える。

現在、オンライン資格確認システムで確認できる薬剤・医療情報はレセプト情報に基づいているため、診療の現場では、あまり役立っていない。このような状況での点数化はもってのほかである。

7対1病床で基準厳格化 老人急性期は包括評価に

高齢者の救急受け入れが焦点となり、急性期一般病棟入院料1(7対1看護配置)において、ドラスティックな厳格化がされた。

具体的には重症度、医療看護必要度の基準値引き上げ、評価項目の削除、該当患者のカウント方法の変更がされ、特に救急搬送受け入れに対する評価が引き下げられた。急性期一般病棟入院料1の病棟を維持していた病院の多くで届出病棟の減少や10対1看護配置への変更を余儀なくされる。7対1看護配置の病棟において、救急搬送受け入れのインセンティブが大きく下がることになるが、新設される「地域包括医療入院料」がその受け皿とされている。これは包括評価の入院料であり、対象として想定される老人急性期は一定の範囲内で対応すべきとの思惑が示された形だ。

その他、慢性期病床において、療養病棟入院基本料の医療区分の細分化がされる一方で、経過措置入院料の廃止も実施され、中小規模の療養病院については対応に苦慮する改定となっている。

診療報酬の引き上げと 患者負担軽減を求める

初診料3点、再診料2点とわずかながら引き上げられたが、処方箋料が▲8点と汎用点数の引き下げによる影響は避けられない。

大阪府保険医協会は、地域医療を充実したものにするため、引き続き診療報酬の引き上げ・改善、そして患者負担の軽減を求めていくものである


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