保険証廃止・医療DX推進に固執
6月16日、政府は2023年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。他人の情報との紐付けなど、重大事案が連日のように報道されているマイナンバーカードの利用促進の姿勢を改めるどころか、国民皆保険制度の崩壊につながる24年秋の保険証廃止に固執し、医療DXの推進を「着実に実施する」と明記している。この間の各社世論調査では保険証廃止方針に反対の声が過半数を超え、マイナンバーカードの返納が急増するなど、政府の進めるデジタル化に対する国民の不安が強まっているにもかかわらず、一旦立ち止まっての制度設計の見直しさえいわない姿勢は言語道断であり、到底認められない。
国民の分断を更にあおる「全世代型社会保障」推進
社会保障制度については、患者・利用者負担増を盛り込んだ全世代型社会保障「改革の工程の具体化」を進めるとし、リフィル処方の推進や医薬品の長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、セルフメディケーションの推進など患者・国民負担の増加メニューが並んでいる。また、少子化対策の一環として現役世代の「保険料負担の上昇を抑制することが極めて重要」としたうえで、後期高齢者の保険料引き上げを持ち出しており、世代間分断を更にあおる書きぶりとなっている。全国保険医団体連合会が実施した調査では、経済的理由による受診控えが全世代で2割近くにのぼった。特に、75歳以上の医療費2割負担対象者の約3割が、受診回数や検査・薬などを減らしたと回答しており、これ以上の負担増を受け入れられる状況ではないことが明らかになった。全世代での負担軽減策の実施が急務である。
診療報酬引き上げ明言せず
来春には医療・介護・障害福祉のトリプル改定が控えているが、骨太の方針では「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」との曖昧な表現に留まっている。異次元の物価高騰に見舞われる中、医療・介護分野での賃上げは他分野に比べ遅れており、このままでは賃金格差も広がり人材確保が更に困難になる。診療報酬の抜本的な引き上げを強く要望する。
防衛予算捻出のための社会保障削減に強く抗議
介護の分野でも利用料2割負担者の範囲拡大や介護保険外サービスの利用促進などが盛り込まれた。医療・社会保障を抑制・削減する一方で、防衛予算は倍増していく構えを強調している。周辺国との際限なき軍拡競争をもたらし、格差を広げ社会不安を蔓延させる政治に未来はない。
大阪府保険医協会は、国民生活を破壊する防衛予算倍増と医療・社会保障の削減、国民の過半数が反対する保険証廃止に固執する「骨太の方針2023」に強く抗議するものである。
2023年7月5日
大阪府保険医協会理事長
宇都宮健弘