保険者も「保険証廃止」に反対(国保組合へインタビュー実施)

〝帰属意識〟低下と誤解による申請漏れ懸念

現在政府は健康保険証を来年秋には廃止しようとしています。本紙でも保健証廃止の問題点について医療者の目線で何度も取り上げてきましたが、今回は保険者側の思いについても取り上げるため、ある国保組合にインタビュー取材を行いました。なお、希望により匿名とさせていただきます。【取材日:3月7日/大阪保険医新聞2023.4.5号掲載】

―国は健康保険証の廃止を打ち出しています。このことについて、保険者として率直にどのようにお考えでしょうか。

私たちの国保組合としては、保険証廃止には大きな問題があると考えています。それは大きく3点の理由によります。

まず1点目は、全ての組合員がマイナンバーカードを持っているわけではないということです。

マイナンバーカードの取得は現在義務ではなく、あくまで申請によるものです。そのため何らかの事情で申請ができず、医療にかかれない方が出てくる可能性があります。我々保険者の立場としても、日本の保険制度の特長である「フリーアクセス」を阻害しかねない事態と捉え、問題があると考えています。

「帰属意識」の低下が招く問題点とは

2点目が、保険証の現物交付がもたらしていたメリットが失われてしまうことです。特に国保組合としては、我々が大切にしてきた「帰属意識(仲間意識)」が無くなってしまうことが問題だと考えています。

これまでのように現物としての保険証がある場合は、年に1度「保険証の交付会」というものを設けておりました。そこでは、単に保険証を交付するというだけではなく、特定健診や保健指導の勧奨をしたり、健康増進活動の呼びかけなどを行っていました。このことが、仲間意識を育み、組合員の健康を守る一助になっていたと思います。

また、細かい話にはなりますが「ジェネリック希望シール」など、現物の保険証があるからこそできた対応ができなくなることについても受診行動に何らかの影響をもたらす恐れがあると考えています。

3点目ですが、マイナンバーカードには保険者の情報が載っていません。そのため、組合員は自身が〝〇〇組合の保険〟に入っているという認識をしなくなってしまう恐れがあります。

実際に「マイナ保険証」のことを、保険者も別の「新たな保険証」と捉えている方も少なくありません。そのため、住所変更等があったとしても、組合に連絡や手続きをせずに放置されてしまうことが危惧されます。

また、先ほどの「帰属意識」にもつながることですが、組合員は〝〇〇組合の保険〟に入っていると思っていたからこそ、「他の組合員のためにも自身の健康を守っていこう」と、努力をしてきていました。

そうした努力が、保険者名の書いていないマイナ保険証では失われていまい、結果的に保険財政をより圧迫する可能性もあります。

マイナ保険証一本化で事務・管理負担が増大化

―「マイナ保険証になることで住所変更等がなされず放置されてしまう」とおっしゃっていましたが、マイナ保険証になることで事務作業増や管理リスク増の問題が引き起こされてしまうということでしょうか。

ご指摘の通りで、非常に危惧しているところです。一部繰り返しにもなりますが、例えば組合員がマイナ保険証に一本化した後に住所変更をした場合、「役所で転出・転入届を出せば、マイナンバーの情報も切り替わるので、保険証情報も自動的に切り替わるだろう」と誤解をする可能性があります。しかし、実際には保険証情報は自動的に切り替わりません。その結果、組合員と連絡等が取れず、正確な被保険者管理や保険料の適切な徴収等ができなくなるといった事態が多発することを恐れています。

また、組合員からの問い合わせには、これまで保険証の番号を聞いて、すぐに本人確認等の対応ができていましたが、今後は対応により多くの時間を要してしまうことが予想されます。

こうしたことによって、組合員の情報登録が円滑に行えず、「医療機関でオンライン資格確認により閲覧できる情報が実は誤っている」という状況になることを恐れています。国は「マイナ保険証」及び「オンライン資格確認」のメリットばかりを声を大にして言いますが、実際には現場の事情まで考慮しているとは思えません。

個別の申請に基づく資格確認書発行は困難

―国は保険証廃止の一方、「マイナンバーカードによりオンライン資格確認を受けることができない状況にある方」については、本人から希望があれば「資格確認書」を保険者が発行することを打ち出しています。これに関してはどのようにお考えでしょうか。

まだ制度の詳細が示されていませんが、患者の希望だけで資格確認書の発行を行うことは、現実的ではないと考えています。少し考えていただければわかると思うのですが、数万人の組合員に加えてその家族の方からの申請が連日くれば電話対応だけでパンクしてしまいます。

それに加えて、どの組合員に資格確認書を発行・発送したのか、さらに有効期限はいつまでかなど、個別に管理するのはあまりに負担が大きすぎます。

資格確認書発行については「保険者の判断によって対応」という話も出てきていますが、個別に対応するくらいなら、一律に資格確認書の発行をする方が、事務作業・管理上の面でまだ現実的ではないかという意見もあります。

資格確認書の発行については、今後さらなる続報が出た段階で、対応を熟慮したいと考えています。

―最後に『大阪保険医新聞』の読者である医療者に対してメッセージがあれば教えてください。

まず、新型コロナ禍の中で、保険医協会の先生を含め、多くの医療従事者の方々が国民の命を守るために奮闘されてきたことに感謝申し上げます。

そうした中で、国が進めている保険証廃止やオンライン資格確認義務化の問題は、我々保険者としても、医療従事者の皆さんと問題意識の多くを共有しているつもりです。

日本の医療を守るためにも保険医協会が精力的に取り組んでいらっしゃる保険証廃止反対運動を、今後もぜひとも頑張っていただきたいと思います。

―本日は、ありがとうございました。


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