2022年9月24日
大阪府保険医協会
副理事長 井上 美佐
オンライン資格確認義務化が8月10日の中医協総会で答申され、9月5日には療養担当規則改正の省令が告示に盛り込まれた(2023年4月1日施行)。
大阪府保険医協会は「オンライン資格確認義務化の撤回」を求める会員の署名を集めており、そこには多くの会員から「あまりにも拙速すぎる」「なぜ義務化を急ぐのか」と疑問の声が多数寄せられている。
また、9月6日付けのMEDIFAXによると、9月4日に開かれた近畿医師会連合定時委員総会での決議で「オンライン資格確認の拙速な義務化は現状に配慮して再検討せよ」と要請したと報道されている。
われわれ医療従事者として、社会保障を守っていく上で、医療機関・薬局への「オンライン資格確認義務化」がもたらす危険性や国の狙いについて改めて考えたい。
マイナンバーとの紐づけで徴税強化に繋げる狙い
2000年代初頭に政府は「医療受給者証や国民健康保険証、介護保険証、年金手帳などを統合した『社会保障カード』を2011年度から導入する」ことを政策目標として掲げていた。しかし実現はせず、2016年に税と社会保障などの手続に使用する「個人番号」(マイナンバー)が開始されることになった。
マイナンバーカードは日本では運用されていない「納税者番号」と「社会保障番号」が住基ネットに乗せられたものであるといえる。さらに預金口座との紐づけも加わった。
そして国は、今年の6月7日に閣議決定した「骨太の方針」の中で、健康保険証の原則廃止をめざす方針を打ち出した。
原則、全ての国民が持っている被保険者証をマイナンバーカードへ紐づけ、さらに介護、福祉、年金などをリンクさせることで、事実上、社会保障カードとしての役割を持たせ、また徴税強化のための方向に進むこととなるのではないかと懸念する。
狙いは保有資産を反映した保険料の徴収
マイナンバー法第3条2項では「情報提供ネットワークシステムその他これに準ずる情報システムを利用して迅速かつ安全に情報の授受を行い、情報を共有することによって、社会保障制度、税制その他の行政分野における給付と負担の適切な関係の維持に資すること」としている。これを以って政府はマイナンバー制度の目的について〝公正な給付と負担の確保〟を掲げている。
しかし、国が掲げる「公正な負担」とは現在の収入に応じた税と保険料を徴収することではない。「保有資産も反映した」徴収を意図している。また「公正な給付」と言いつつ「いつでも・どこでも・だれでも」医療が受けられる現在の制度の見直しを財政審の建議などで執拗に求めている。
〝死後〟についても徴収を強める狙い
2000年代初頭から、「社会保障個人会計」が議論されてきたことを思い出してほしい。「社会保障個人会計」とは、個人ごとに給付と負担を把握して重複給付などをチェックするとともに、保険料負担に見合った給付しかしないという考えから出されてきたものである。そして、負担した保険料より医療費等の給付が多くなれば、個人が亡くなった後でも、相続財産などから徴収する仕組みが検討されていたのだ。
いずれにしても国民負担を強いる政策がマイナンバーカードの普及を軸に考えられている。
「マイナカード」普及政策の一端を医療界が担わされる
マイナンバーカードは国民にとって便利であることが大きく宣伝されているが、自助・共助・公助の最適な組合せを謳い、徴税強化と社会保障抑制の政策を取る現在の政府からは、国家管理の強化につなげる意図が見え隠れする。オンライン資格確認義務化は、このようなマイナンバーカード普及の一端を医療機関に担わせることになるのではないか。
フリーアクセス阻害に悪用される危険性
さらに「情報が得られて便利」という謳い文句だけではない。患者の受診医療機関が管理できるため、フリーアクセスを阻害する「かかりつけ医」の制度化や、さらに人頭払いにつなげられる危険がある。
今年の6月7日に閣議決定した「骨太の方針」の中で「コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と明記された。かかりつけ医の制度化を国の方針として掲げたことと、マイナンバー政策・オンライン資格確認義務化は偶然の関係ではない。国が進めるデジタル・トランスフォーメーション(DX)政策、その先陣を医療界に切らせるための「オンライン資格確認義務化」ともいえる。
「情報漏洩が不安だからオンライン請求をしていなかった。日医が推進しているが納得いかない」、「ランニングコストがかかるので医療が続けられない」「義務化されるなら閉院する」という意見に加えて、既にオンライン資格確認を導入している会員からは、「本来資格があるにも関わらずシステムでは資格がないと出た」といった事例も寄せられている。便利な側面だけでなく、逆に導入によって医療機関の混乱を招くことも危惧される。
大阪府保険医協会はこうした会員一人ひとりの声に応えていくとともに、実際に導入した医療機関にも義務化は危険であることをご理解いただいて「義務化撤回」の運動を大きくするためにも署名のご協力をお願いしたい。
お問合せ
大阪府保険医協会 電話 06-6568-7721(担当事務局・田川)