建設現場でアスベストを吸い込み、肺がんや中皮腫などの健康被害を受けたとして行われていた「建設アスベスト訴訟」について、5月17日に最高裁は、国とメーカーの責任を認める画期的な判決を言い渡しました。しかし「アスベストは過去の問題」と誤解する方が少なくありません。そこで、長年この問題に取り組んできた大阪府保険医協会の水嶋潔理事に改めてお話を伺いました。
建設アスベスト訴訟について最高裁判決が出されました。裁判に対する先生の思いや、ご感想などを教えてください。
日本では長年の間、危険なアスベストが建材などで大量に使用されてきました。そのため、建設作業に従事していた方について、アスベストの健康被害が多発しています。
しかし、建材メーカーは、アスベストの有害性を知りながらも隠し続け、大きな利益をあげてきました。また、国もアスベストの有害性を知りながら、何の規制も行わないばかりか、逆に使用を促進してきました。
被害者の救済と被害を根絶するためには、建材メーカーと国の責任を明確にすることが重要です。この責任を問うてきたのが、今回の「建設アスベスト訴訟」です。この訴訟は2008年から首都圏(東京地裁・横浜地裁)で始まり、その後全国各地で次々と新たな集団提訴が行われました。
そして、私の開業も同じく2008年で、当時からアスベスト被害者に向き合ってきました。1日も早い解決を願い、私も支援に取り組んできましたが、国と建材メーカーの責任を認める判決が、やっと最高裁で言い渡されたのです。
さらに、この判決を受けて被害者救済に向けた基金法も成立しました。中身についてはどちらも手放しで喜べるものとは言えませんが、一つの結論が出されたことは嬉しく思います。
「一人親方」に対しても国の責任が認められる
最高裁の判決などについてはどういった意義があるでしょうか。
基金法の成立により、今後は裁判を起こさなくても、被害者の救済に向けた筋道ができました。これは、大きな前進だと考えています。
また、いわゆる「一人親方」の方々が救済の枠に入ったことも非常に大きな意義があります。これまで、労働安全衛生法上の労働者にあたらない「一人親方」に対する国の責任は大きな争点になっていました。それが、今回の最高裁で責任が確定し、救済されることが決まったのです。これにより、これまで労災の保障が受けられなかった人たちにとっても、明るい光になったと思います。
ただ、訴訟開始から、多くの原告が亡くなっていく中で、ここまで時間がかかったのは怒りとともに残念な気持ちがあります。
「職歴を聞く」「定期的なレントゲン撮影」が重要
医師の先生方に訴えたいことはありますか。
誤解が多いのですが、「アスベスト」は昔の話ではなく、今なお終わっていない問題です。アスベストによる被害者は膨大で、その多くが埋もれたままです。患者は今後も増えていく状況にありますので、臨床医の先生方には、「アスベスト」の関連疾患が日常的に高頻度で遭遇する「コモンディジーズ」であると捉えていただきたいです。
日常診療において、注意すべき点などについて教えてください。
まず1点目は、「患者さんに対して職歴を聞いていただきたい」ということです。中でも「建設作業」は一つのキーワードです。大工・左官・配管工など関わる業種は多岐にわたりますが「建設作業」のキーワードがあればアスベストの被害を受けている可能性が高く、現在もしくは将来にわたり、呼吸器疾患や発がんリスクがあることを意識していただきたいです。
また、引退後に疾患が発症する方も多いため、ご高齢の方については現役時代の職歴についても注意して聞いていただきたいです。
2点目は健康管理にあたっては「レントゲンが重要」ということです。特に建設作業者やその経験がある方については、胸部レントゲンを最低年1回、できれば半年に1回は行っていただきたいです。
なお、7月11日に大阪府保険医協会主催で行われる「日常診療経験交流会」や、9月19日から20日にかけて行われる全国保険医団体連合会主催の「医療研究フォーラム」ではアスベストに関する私の経験も発表させていただきます。よろしければ是非お聞きいただき、診療の一助にしていただければ幸いです。
本日はありがとうございました。