1、4回連続のマイナス改定となり、医療供給体制の充実に困難
中医協は2月7日総会を開催し、「令和2年度(2020年度)診療報酬改定」に係る答申を行った。
全体としては2014年から4回連続のマイナス改定となり、医療供給体制の充実に困難をきたす。国民の命と健康を預かる医師として納得いくものではない。
2、必要な人員や医療行為への評価に重点を置くべき
今回の大きなテーマであった「医師の働き方改革の推進」をうけて、救急医療の評価引き上げや医師の専従要件の緩和等を入院点数中心に行われる。
個別の点数をみると、確かに救急医療関係の評価が引き上げられている。しかし、その配分は、実績のある救急医療機関に点数をつける一方で、入院料の底上げが無い。結果として、一部の救急医療機関により負担が集中する配分となっていないか懸念する。
また、「アウトカム評価」の拡大は、「結果」からその医療行為を評価し、その「過程」で行われた医療行為への対価を否定することにつながる。必要な人員や医療行為への過程に重点評価することこそ、過酷な医療現場で働くものに報いることになる。このことを強調しておきたい。
3、「かかりつけ医機能」の一層の強化ではなく、初・再診料の引き上げを
入院外の点数については「主治医機能」「かかりつけ医機能」を強化した医療機関を増やすために、地域包括診療加算について施設基準の一部要件を緩和した。フリーアクセス権の制限に繋がりかねない地域包括診療加算等は廃止し、初・再診料を引き上げるべきだ。また、この医療機関以外に受診したときの患者への受診時定額負担の導入にもつながりかねないため、要件緩和して広げることに反対である。
また紹介先の他の医療機関から紹介元のかかりつけ医機能を有する医療機関へ情報提供を行った場合等についての新たな評価として、診療情報提供料(Ⅲ)を新設した。そもそも紹介先の他の医療機関から紹介元のかかりつけ医機能を有する医療機関への情報提供は、紹介元医療機関がかかりつけ医機能を有しない(機能強化加算の施設基準を届けていない)医療機関の場合でも評価するべきであるが、今回、機能強化加算を届けている医療機関を軸とした連携においてのみの評価となった。
4、「在宅患者訪問診療料Ⅰ」の(2)は月1回制限の撤廃こそ必要
「在宅患者訪問診療料Ⅰ」の(2)は、必要に応じて医療機関間が情報共有し主治医が医学的に必要と判断し、診療の求めがあった場合6カ月を越えて算定できると明確化された。われわれが以前から問題にしていた月1回の算定制限については従来のままだ。前回改定直後から月1回の算定制限に疑問を呈した会員からの声が多くあった。2019年の4月に保険医協会が取り組んだ実態アンケートでは、「月1回の算定制限」により診・診連携が阻害されていることが明らかになり、今回の改定では何ら解決しないこととなる。この答申直後から次期改定に向けて、「月1回の算定制限」の撤廃を求めて運動を開始する。
5、小多機・看多機入所者の訪問診療、退院直後の要件緩和が実現
今回、大阪協会より多くの要望を出していた中で改善が実現した一つは退院直後に小規模多機能型居宅介護又は看護小規模多機能型居宅介護に入所した患者への訪問診療料の算定が可能になったことである。しかし、その算定は30日間に限られ、その日を経過すれば一旦自宅に戻り、訪問診療を行うことが必要なのは変わりない。独居老人の増加に伴い一度も居宅に帰られずにそのまま施設に入る患者は今後もますます増えている現状から、「30日ルール」の撤廃等を強く求める。
6、オンライン診療料は利便性優先でなくエビデンスに基づくものを
前回、注目されたオンライン診療料では、事前の対面診療の期間を6カ月から3カ月に緩和される。中医協では医学的エビデンスよりも利便性を上に置く議論がされてきたことに懸念を持っている。評価につき、2018年度改定の結果検証調査では対面診療と比べ不満が少なかった患者の意識調査が報告されたが、医療機関から見た意識と大きく異なる。
医師は聴・打診、触診、患者の何気ない仕草や雰囲気等、患者の状態全体から得られる情報を総合的に診て、治療方針を決定している。画面を通したやり取りだけでは不十分ある。こうしたことから要件を見直して算定対象を広げることには反対である。
7、「妊婦加算」「産婦人科特例加算」を廃止するなら、初・再診料で評価を
凍結となっている「妊婦加算」「産婦人科特例加算」が正式に廃止される。廃止するなら妊産婦に対する診療を適切に評価することと、産婦人科以外の医師が妊産婦に対する診療を控えることの解消を図るためにも、初・再診料にて評価すべきである。
8、外来維持期リハビリテーション廃止に伴う問題への再考を求める
2019年3月末で要介護被保険者等の外来維持期リハビリテーションが廃止された。しかし、現場では、介護保険による通所リハ施設においても、事業所の立ち上げを躊躇している実態が多く報告されており、受け皿の拡大がなされていない。大阪協会はアンケート調査を実施し、実態を明らかにするとともにこの維持期リハビリ復活を強く求めたが、中医協で検討されることなく廃止が明確化されたことは遺憾である。国が現場の実態を踏まえるように、そしてリハビリは医療であるとの立場で引き続き再考を求める。
9、ギャンブル依存症治療の保険適用は反対ではないが、唐突感が否めない。
「ギャンブル依存症に対して有効な治療の提供を推進する」観点から、依存症の集団療法は保険給付として評価される。有効な治療の提供を推進する観点において、保険適用することに反対するものではない。しかし国がすすめるIR事業と表裏一体のようで唐突感が否めない。ギャンブル依存症を作り出すIR事業の撤回こそ最大の予防である。
10、診療報酬引き上げと患者負担の軽減を引き続き求める。
大阪府保険医協会は、地域医療を充実したものにするため、引き続き診療報酬の引き上げ・改善、そして患者負担の軽減を求めていくものであり、会員の先生方のお力添えをお願いする。