府が福祉医療費助成の解体狙う 【大阪保険医新聞1、2面】

今こそ全国に先駆け老人医療無料化を実現した原点へ立ち返れ(1面)

大阪府は今、福祉医療費助成制度の“改定”を進めています。助成対象が一部拡大されるという新聞報道等がありますが、必要となる経費は、患者の一部負担増や対象者の一部を外すことでまかなう方向です。また、今回の改定案(表1・2)では、府民の強い要望で実現した「老人医療費助成制度」は実質廃止されることになります。

そこで、改めて「老人医療費助成制度」をめぐる歴史的な経過を振り返りたいと思います。

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“生きていてよかった”と喜ばれた老人医療無料化

大阪府の福祉医療費助成制度は、1972年に全国に先駆けて実施した老人医療無料化から始まりました。その後、障がい者医療やひとり親家庭、乳幼児医療と徐々に対象者を拡げ、府民福祉の要として定着してきました。

老人医療無料化の実現には、府民要求の高まりと保険医協会などの運動が大きな役割を発揮しました。保険医協会は1970年10月に老人医療対策委員会を設置し、「老人健診完全実施」「理想的な老人医療無料化」を国、自治体に対して要求していくことを決め、翌71年の府知事選で黒田了一候補に対する要望書に「65歳以上の老人医療費無料化」を盛り込みました。

これに対し、黒田候補も政策大綱、公約に老人医療費の無料化を掲げ、府民の大きな期待を集めて当選を果たしました。そして、当選後の72年1月、70歳以上の医療無料化(73年に67歳以上に拡大)を実現させたのです。

無料化で受診率が向上 平均寿命の延伸も

大阪からうまれた老人医療無料化のうねりは国をも動かし、1973年1月の老人福祉法制定(70歳以上の老人医療費無料化)につながりました。老人医療無料化によって、多くのお年寄りが何の心配もなく安心して医療機関に足を運ぶことができるようになり、「生きていて良かった」と喜ばれました。また、無料化で受診率が向上したことにより、短期間での平均寿命の延伸という結果にもつながりました。当時を知る医師は言います。「あの時は患者さんの顔が輝いていた」

府民福祉の要「福祉医療費助成制度」
国の制度改悪と共に引き上げられてきた自己負担(2面)

1983年、国の高齢者医療有料化(老人保健法)と同時に府の老人医療も有料化されました。その後、国の医療保険制度の改悪が続き、患者自己負担はどんどん増額されてきました。2001年には、それまで定額制だった高齢者の窓口負担が原則1割負担となり、独自助成を行っている大阪府の負担が大幅に増えました。府の財政圧迫を理由に、太田房江知事(当時)は2004年11月、福祉医療費助成制度の再構築として、すべての制度で一部自己負担を導入しました。

2009年の2月議会で橋下徹知事(当時)は、自己負担額を1回500円から800円に引き上げようとしました。保険医協会などの反対運動、府民世論で議会最終日に提案が取り下げられ、改悪を阻止することができました。

しかし、2008年に立ち上げられた「福祉医療費助成制度に関する研究会」は残され、その後も虎視眈々と改悪のタイミングを狙っていたといえます。

“痛くても我慢しなくてはならないの?”府民守る防波堤の役割発揮を

患者窓口負担の増加は受診抑制につながっています。保険医協会が実施した貧困調査・受診実態調査では、45%の医療機関が経済的理由による受診中断を、56%が検査・投薬拒否などを経験しています。

現在協会が取り組む「ストップ!患者負担増」署名にも、「高齢者であり、低所得者です。痛くても我慢しなくてはならないのでしょうか」「年金は減らされるのに、保険料や自己負担ばかりが増える。高齢者いじめはやめて」などの切実な声が寄せられています。

大阪府では、全国平均を上回る速さで高齢者の割合が増加しています。また、単身高齢者世帯も多く、医療ニーズが急激に増加することが見込まれます。医療提供体制については地域医療構想などで議論されていますが、自己負担が引き上げられれば、そもそも医療を受ける機会が奪われてしまうことになりかねません。

地方自治体の独自助成制度は、国の不十分な福祉を補うために、自治体独自で住民の切実な要求と運動を元に実現されたものです。国庫負担が減らされている中、自治体財政は厳しくなっていますが、府民福祉第一の政策に転換すれば財源は十分にあります。言われるがまま国の方針に流されるのではなく、福祉医療費助成制度を抜本的に拡充し、苦しい生活実態にある府民を守る防波堤の役割が今こそ大阪府に求められています。


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