面談は運動による歴史的成果 国民皆保険確立と共に歩んだ「審査の民主化」

都島区 辻 一省 氏
・1955年に辻医院を開業
・1979年~94年に大阪府保険医協会理事歴任
・医師会では日医代議員、大阪府医理事を歴任

再審査請求における「面談」での異議申請が4月から原則廃止されようとしています。この制度は全国でも大阪のみの貴重な制度で、存続を求める意見が多く出されています。しかし、そもそもなぜ大阪でこの制度が作られたのでしょうか。そこで制度創設運動に大きく寄与をされた都島区の辻一省氏にお話をお聞きしました。

―面談での異議申請廃止に関して先生のお考えを教えてください。

まず知ってほしいのが歴史的な経過です。私が1955年に開業した頃に、現在の国民皆保険制度はありませんでした。元々日本の保険制度は第二次世界大戦の際に作られたものです。「富国強兵」のための制度であり、現在の制度とは目的が全く異なりました。

敗戦によって「平和と国民の健康に資する」ための目的へと変わっていったのですが中身そのものは大きく変わりませんでした。

また、当時は現在のような一律の単価制度ではなく、加入者も一部の産業の方に限られていました。しかし、国民の半数程度は加入しており、開業するにあたっては、健康保険を取り扱う必要があったのです。

―当時はどのような審査が行われたのでしょうか。

産婦人科医として開業後、「子宮発育不全」の病名で打った注射が半分以上削られるような凄まじい減点が行われました。

私は腹を立て、基金に対して直接苦情申し立てに行きました。すると出てきた審査委員から「子宮発育不全など病気ではない。お前は注射魔だ」と暴言を吐かれたのです。この頃の審査委員は、旧内務省の官僚や大学教授が定年後に務める場合が多く、態度は非常に横柄でした。

騒ぎを聞きつけた当時の府医の先生からは「保険医は請求を出すことはできるが、審査内容について面談で直接異議を申し立てる権利はない」「直接呼び出す権利は審査委員のみにある」と言われました。大変不公平ですが、この原則は法律的には今も変わっていません。

しかし、患者の状態は千変万化のため、不合理な審査が行われれば国民に必要な医療を提供することができません。患者の状態を最もよく知る医師が主張できる場が必要です。健康保険制度の目的が変わったにも関わらず、戦時中の強権的な中身を引き継いだままであってはなりません。

当時の保険医運動としては「平等な国民皆保険の実現」「制度の逐次改善」などと合わせて、各プロセスにおける「民主化」が非常に重要なものであると考え、大きな運動が進んでいきました。

全国で〝唯一無二〟大阪の奮闘
忘れてはならない医師の矜持

―運動はどのように広がっていったのでしょうか。

1950年に第一次大阪府保険医協会が全国で初めて「減点内容の理由の通知、異議申請を認め、再審査を認める」合意を基金との間に成立させ、後に全国で広がっていきました。

しかしながら、私が開業当初に経験したように未だに審査は民主的なものではありませんでした。審査を民主的なものにしていくためには、審査委員会内に民主的な勢力を増やしていく必要があります。そのため、療養側の審査委員は民主的に選挙で選んでいこうという運動を起こして実現させました。

この「審査委員の公選制」は全国でも大阪のみでしたが、審査の民主化に大いに貢献しました。民主的なプロセスで選ばれた審査委員の先生方に奮闘していただいたおかげで、これまでの「切り捨て御免」の審査が大きく変わっていったのです。

こうした運動の中で、審査に異議申し立てがあれば「当月内に再審査が行われる」権利も勝ち取っていきました。この「当月内再審査」とは、審査に異議があれば〝互いに意見交換〟をしたうえで「正当性が認められればすぐに復点される」「誤りがあれば翌月の診療にすぐに反映できる」というものです。

後に廃止されてしまいましたが「面談での異議申請」が大阪の貴重な制度として存続したのです。こうした歴史で生まれた大事な制度が突然無くなることは許されません。

―会員の先生方に訴えたいことはありますか。

民主的な審査の発展に寄与した「審査委員の公選制」「当月内審査」「面談での異議申し立て」は全て、全国で大阪のみの制度です。国から言われて作られた制度ではなく、民主的な医療の発展を求めた大阪の在野の医師の運動によって作られたものです。

だから今私たち医師は「もう決まったことなので、しょうがない」ではなく「こんなことでは国民医療は守れない」と言い続けなければならないのです。私たち医師は「抵抗の意思を忘れてはいけない」ことを改めて訴えたいです。


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