大阪の「二重行政」を考える

2つあるものが必ずしも無駄とは限らない
「無駄」は一体だれの判断で決めるのか

2015年に行われた住民投票で、反対多数で否決が下された「大阪都」構想ですが、大阪維新の会(以下、維新の会)は再度「都」構想案を提示、11月1日(予定)に住民投票を行い、大阪市民の“民意を問う”としています。「都」構想について、この稿では維新の会の主張の柱となっている「二重行政の解消」について改めて確認し、「都」構想で特別区になることによって本当に良くなるのか検討したいと思います。【文責:政策調査部】

大阪市は約270万人の人口を抱えた地方自治法の定める「政令指定都市」であり、都道府県から委譲された独自の権限を持っています。そのため、府内の他市町村とは異なり、地域の住民ニーズに対して独自にきめ細やかな施策を打ち出すことが可能です。

維新の会は、この権限が大阪市にあることによって、大阪府と大阪市の業務が重複し、行政コストに無駄が生じているという「二重行政」があると主張し、大阪市を廃止する「都」構想の必要性を訴えています。しかし、この府と市の「二重行政」は本当に無駄なのでしょうか。

市民の「必要」の声、無視される結果に

2012年頃に橋下徹大阪市長(当時)は、大阪市立住吉市民病院について近隣に「大阪府立急性期・総合医療センター」があることから「二重行政の無駄の典型」であると主張し、住吉市民病院の統廃合を決定しました。

しかし、廃止された住吉市民病院は、シングルマザーや未受診妊婦の出産など福祉的ニーズの高いケースの積極的受け入れや、重症心身障害児の短期入所を引き受けるなどの機能を併せ持った病院であり、多くの大阪市民が廃止反対の声を上げていました。しかし、廃止の決定は覆ることはありませんでした。暫定的に「市立住之江診療所」が開設されたものの入院や短期入所のニーズには応じることは難しく、医療空白が生じているとの指摘がなされています。

2カ所だからこそリスク分散できる

また、同じく「二重行政の象徴」であるとして、公衆衛生の役割を担う大阪府立公衆衛生研究所(公衛研)と大阪市立環境科学研究所(環科研)についても、「大阪健康安全基盤研究所(以下、大安研)」へと統廃合しました。

しかし、公衛研は府内にある保健所の指導的立場として、環科研は大阪市の保健所などと協調しながら検査や研究を行う機関として、それぞれ異った役割を持っていました。担当する行政区も環科研は大阪市内、公衛研は府内と異っていたため、実際は「二重」であるとは言えないという指摘がされています。

2017年4月に統合・行政法人化されたが、まだ合同庁舎へ移転されていなかったため、コロナ対応でリスク分散できている
※大阪健康安全基盤研究所作成資料より抜粋

大安研は新庁舎が出来るまでの期間は従来通り、大阪市の検体は天王寺、府の検体は森ノ宮の旧施設で検査を行っています。その結果、今回の新型コロナ禍では、仮にどちらかの機関内で陽性者が出て、検査が止まったとしても、もう片方の施設で引き続き検査が可能な体制となっていました。本誌が行った取材でも、今回のコロナ禍で元々あった二つの施設で検査が行えたことで「リスク分散」ができたと大安研の職員は述べています(「大阪保険医新聞」6月15日号)。

必要な事業等は二重・三重当たり前

こうした例のように、府立と市立の施設が並立されていることは必ずしも「無駄」であると言い切ることはできません。巨大な人口を抱える大阪市が市民のために必要な施策を行うことと、大阪府が府民のための施策を大阪市内で行うことは「府内全域」の利便性や需要を考慮したうえでの判断です。

広大な大阪市24区がそれぞれの区ごとに抱えている問題は様々です。大阪府としてきめ細やかな対応が難しい、大阪市民のニーズに応えるための施策・事業は決して悪い「二重行政」ではありません。

多様性を受け止められる社会にするためにも、十分な財源と独自権限を持つ市の存続は必要不可欠です。


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