報道関係各社御中
大阪府保険医協会は8月29日の理事会で、ギャンブルの危険性を軽視してカジノ誘致に盲進する政府と大阪府に抗議声明を出すことを確認し、9月2日に関係者に送付しました。
ギャンブルの危険性を軽視し、カジノ誘致に盲進する政府と大阪府に撤回を求める。
2019年9月2日
大阪府保険医協会
政府は今秋にも、カジノを含む総合型リゾート(IR)事業者の適格性を判断するカジノ管理委員会を設け、設置区域の選定基準などを定めた基本方針案を公表すると報道されている。
そもそも、今年7月にもカジノ管理委員会を設置し基本方針の策定を予定していたが、カジノを巡ってはギャンブル依存症の拡大を懸念する声が大きく、先の参議院選挙の逆風となりかねないことで先送りした経過があるように、国民世論はカジノ反対が多数を占める。
今回の政府の発表は基本方針案を秋に公表することで、誘致を検討している自治体に準備の加速を求めるもと言える。
こうした中、大阪府は国の基本方針を待たずに、この春にIR基本構想を示し、8月9日までにパブリックコメントを募集した。
われわれは国民の命と健康を守る団体として、ギャンブル依存症患者を増やし、府民の生活を破壊しかねない政府と大阪府の拙速な動きに対して強く抗議する。
大阪では6万人がギャンブル依存症に陥る
国民・府民の税金を使って誘致すること自体が問題
大阪府はIR基本構想の中で年間売上を4800億円、うち“ゲーミング”で3800億円としている。
ギャンブルを“ゲーミング”という名称に変えても、遊びの範疇にあるものではなく、身を滅ぼす恐れもある“賭博”である。大阪府はこのゲーミングすなわちギャンブル(賭博)で3800億円、日本人から1600億円の収益を上げるとしている。
1600億円の収益を上げるには、2兆円以上をギャンブルに投じなければならないとの試算もあるが、それに加えて、依存症になる割合もギャンブラーの1~2%といわれている。大阪市は年間590万人がゲーミング施設を利用するとしている。この数字をもとにすると、6万人近い人がギャンブル依存症に陥ることになる。
大阪府のIR基本構想の中で「府市は(ギャンブル)依存症対策のトップランナーをめざし…」とあるが、試算が示すように依存症を誘発するギャンブル(賭博)施設を、国を挙げて、国民・府民の税金を使って誘致すること自体が問題である。
大阪府のリーフレット
高校生にギャンブルを「娯楽」と
IR基本構想ではギャンブル依存症の予防として高校生向けに教育を行う旨の記載があるが、昨年12月に大阪府・市が作るIR推進局推進課推進グループが府内全高校に配布されたとするリーフレット「将来、ギャンブルにのめり込まないために」では、ギャンブルとの付き合い方として「生活に問題が生じないよう金額と時間の限度を決めてその範囲内で楽しむ娯楽です」としている。
ギャンブルは賭博のことであり、これは刑法に違反する行為である。競馬や競輪などの公営ギャンブルやパチンコは、その個別法の定めや公益性等から違法性が阻却されたきわめて例外的な存在である。高校生に配布したリーフレットには、あたかもギャンブルには違法性がなく身近な娯楽ととれるこうした表現は、高校生に大きな誤解を与えるもので、このようなリーフレットを自治体が配布したことに強い怒りを覚える。このIR誘致に盲進するあまりギャンブルの危険性を軽視する大阪府の姿勢を如実に表しているのが今回のIR基本構想である。
ギャンブルは身を滅ぼす恐れもある賭博
本人だけでなく周りにも長年害を与え続ける
現在、パチンコや競馬・競輪などでもギャンブル依存症を発症する患者は後を絶たない。ギャンブルは娯楽という遊びの範疇にあるものではなく、身を滅ぼす恐れもある賭博という危険なものであることを認識すべきである。
依存症患者および家族の体験・証言からは、ギャンブル依存症患者の特徴として家族・親族が借金の尻ぬぐいを何度もさせられることによる家族関係崩壊、お金を求めての周りへの暴力行為・暴言などの肉体的・精神的苦痛が強いられる。また窃盗や万引きなどの犯罪にもつながり、本人だけでなく周りにも長年害を与え続けているということが多々報告されている。現在、パチンコや競馬・競輪などでもギャンブル依存症を発症する患者は後を絶たない。
われわれは国民の健康と命を守る医師の集団として、国の施策を悪い方向に先取りした大阪府のIR基本構想に断固反対する。そしてギャンブル依存症患者を増やすカジノ誘致施策を進める政府に抗議するともに、カジノ誘致施策の撤回を強く求める。