大阪府では「子ども医療費助成制度」がありますが、1回500円の自己負担が設けられています。しかし、全国的には自己負担が設けられていない地域が少なくありません。特にコロナ禍で苦しい経済状況に追い込まれている世帯では、自己負担の存在が受診控えに繋がっている可能性があります。この「自己負担と受診行動の関係性」に関する問題について、大阪府保険医協会の評議員である春本常雄氏が独自に実態調査に取り組まれましたので、お話を伺いました。聞き手は編集部です。 ※春本氏の実態調査の詳細についてはこちらをクリックしてください。
-調査実施の経緯について教えてください。
大阪府では「子ども」及び「ひとり親家庭」において、1回500円の自己負担で受診できる医療費助成制度が設けられています。
しかし、全国的には東京・神奈川・愛知などをはじめ、多くの地域で「子どもの医療費は無料」が珍しくありません。そのため、近畿圏で根強く残る自己負担には、元々疑問を持っていました。
そうした中で、コロナ禍で収入が激減している方に関する報道を拝見し、この局面で自己負担が受診行動に抑制的に作用している可能性を考えました。
ただ、周囲の先生方と話すと「500円程度の自己負担の有無は、受診行動に影響しないのではないか」という意見も多く聞かれたので、それならばと思い、実際に調査を行うことにしたのです。
調査は医療機関に受診された当事者の方と保育園の保護者の方などを対象に行い、111人の方から回答を得ました。
コロナ禍で収入減の家庭 自己負担が「受診抑制」に
-調査の内容について教えてください。
調査では、まず「コロナ禍で、ご家庭の収入は減っていますか」と尋ねました(図1)。その結果、「激減した」と答えた方が8%、「減っているが、ある程度の収入は得ている」と答えた方が34%おられ、合計すると42%の世帯が「コロナ禍で収入が減少」していました。一方、「(ほとんど)減っていない」と答えた方は58%となりました。
この3つの回答群を、それぞれ「激減群」「減少群」「不変群」と呼び、比較検討に活用することにしたので覚えておいてください。
次に「自己負担金があることで受診を控えることがありますか」と尋ねました(図2)。その結果「よくある」は3%、「時と場合により、控えることもある」が41%おられ、「自己負担が受診に影響している方」は合計44%に上りました。
先に申し上げたように「500円程度では、受診行動に影響しない」と考える方は医師の中でも少なくないのですが、実際には半数弱の方にとって自己負担も受診の判断基準となっていることがわかりました。
更に、この結果を先程の3つの群で比較してみると「激減群」では「よくある」「時と場合による」を合計すると100%となるのに対して、逆に「不変群」では「全くない」が4分の3を占める結果となり、顕著な違いが見られました。収入が減っている世帯ほど自己負担が受診行動に影響していると言えます。
「自己負担はゼロへ」コロナ禍で切実な声
さらに「コロナ禍の中で自己負担はどうあるべきか」について尋ねたところ、「無しにして欲しい」は53%と最も多く、半数を超えました。ただ、「自己負担金は現状維持でよい」と答えた方も37%と相当数おられました。
この結果についても3群で分析をしてみたところ、「不変群」が「現状維持でよい」と答えた割合が高い(約半数)のに対して、「激減群」では100%、「減少群」では約3分の2が「無しにしてほしい」と回答しています。つまり、収入が減っている世帯ほど、自己負担を無くしてほしいという切実な思いが伝わってくる結果となりました。
なお、自由意見欄を見ると「現状維持でよい」と答えた方の中にも、「困窮者には免除制度を設けるべき」など負担軽減措置に好意的な意見も見られました。ただ「自己負担を無くすことで他の社会保障が削られるのではないか」と心配する声もあり、そうした懸念が「現状維持」の理由の一つになっていると思います。実際に自己負担を無くす際には、他の社会保障制度の縮小と引き換えにならないようにすべきです。
特例措置実現の原資はある「負担ゼロ」は現実的な要求
-今回の結果をどう捉えておられますか。
今回の調査で「自己負担は受診を決める際の判断基準の一つになっている」ことがわかったと思います。特に、コロナ禍で収入が減っている世帯ではその傾向はより顕著です。逆に言えば、自己負担を無くせば、受診に結びつく可能性があると考えられます。コロナ禍で子どもたちの必要な受診が阻害されるようなことはあってはなりませんので早急に対策すべきです。
そのため、せめてコロナの期間、特定の方々にだけでも「子どもの医療費自己負担をゼロにする」特例の時限的救済措置を実現すべきと訴えたいです。
更に、昨年はコロナ不安をきっかけに子どもたちの受診が大幅に抑制されていたことで、結果的に子ども医療費助成制度の収支には余裕が生まれているはずです。これを特例措置の原資に充当すれば実現は十分可能と考えます。
「措置実現の原資はある」「子どもの健康に資する」「受診抑制に苦しむ医院の助けにもなる」という3点が揃った誰も泣くことのない非常に現実的で意義のある要求だと思っています。
保険医協会は今年の3月に同趣旨の要求を大阪府に対して行っていますが、更に強い要請を行っていただきたいです。
子ども医療費は、他地域ではそもそも「ゼロ」が当たり前で、荒唐無稽な要求ではありません。更に、今回の私の提案は、特例として対象・期間を絞ったものであり、すぐにでも実現すべきものです。ぜひ、他の先生方とも協力していち早い実現を訴えたいです。