村上弘教授(立命館大)への特別インタビュー
大阪市を廃止する「大阪都」構想について住民投票が11月1日にも行われようとしています。しかし「都」構想の詳細については周知されないまま「二重行政の廃止」などのイメージのみが先行し、十分な議論が行えていません。そこで、地方自治論を研究する立命館大学の村上弘教授にインタビューを行い、「大阪都」構想をめぐる議論の整理と、問題点についてお聞きしました。インタビュアーは編集部です。(9月11日取材)
―現在「都構想」の住民投票をめぐって様々な報道がなされていますが、先生のお考えを教えて下さい。
村上 「都」構想をめぐる主な争点・論点について整理したのが下の表です。
まず始めに指摘したいのが、住民投票で問われているのは「大阪市廃止」の是非だということです。今回の住民投票用紙にはやっと「大阪市廃止」の文言が含まれましたが、前回の住民投票時には全く触れられませんでした。誤解を十分に解かないままでの住民投票の実施は問題です。
次に指摘したいのが「二重行政」の問題です。推進側は府と市で重複しムダなものが多いと言います。しかし、図書館や体育館、更に二重行政の名のもとにすでに統廃合されてしまった病院や衛生研究所など、実際は府民・市民の需要に対応した便利な「二重」が多いのです。
そもそも、既に統廃合はかなり進んでおり、二重行政解消のために大阪市を廃止する必要はありません。大阪観光局の例のように府と市で協議のうえで統合すれば済むのです。
大阪市廃止で地域の声が届きにくくなる
―特別区になることで住民の声は届きやすくなるのでしょうか。
村上 普通の自治体であれば、独自に都市計画、街づくり、産業振興等の権限・財源・職員を持ち、地域住民のために力を尽くすことができます。しかし大阪市廃止後の特別区ではこうした仕事を行うことができず、地域の意見は逆に届きにくくなります。
また、大阪市の事業を府が継承するので、何も変わらないと推進側は主張しますが、大阪市が廃止され大阪府しかなくなると、大阪市エリアの要望は大阪府全体の3分の1のウェイトしか持ちません。結果的に府から軽視されてしまいます。こうしたデメリットを推進派は説明しません。
―最後に読者の医師に伝えたいことはありますか。
村上 推進側は府市の対立によって政策が進まないと言いますが、これまで万博も街の整備も、府と市が協力して進めてきたものです(維新の成果も含む)。大阪市が持つ専門的な力は強力で、府との役割分担によって大阪全体の発展に繋がっていました。「大阪都」で大阪市が無くなってしまうと大阪は、むしろ衰退する可能性の方が高いと考えます。
是非、医師の先生方には「都」構想のことを正しく知っていただき、広めて欲しいです。そのための資料(右記)も作成しました。ご活用ください。
http://shinbun.osaka-hk.org/archive/200925mtokousou.pdf