国立科学博物館・標本資料センター長
分子生物多様性研究資料センター長
真鍋 真

ふつうの爬虫類は卵を産むと、卵を地中に埋めて隠しておく。鳥類は卵の上に親が座って、卵を守りながら親の体温で卵を温めることによって、卵の中の子の成長を促進し、無防備な卵の中での時間を短縮させている。また、鳥類は生まれたヒナの世話をすることで、次世代のサバイバル率を向上させている。

本連載の第2回目(10月15日号)の最後で、恐竜の卵の殻はもともとやわらかかったらしいことが、2020年6月に発表された論文によって明らかにされたとお伝えした。

図2:ムスサウルスの生体復元の一例(画:工藤晃司)

その論文はアメリカ自然史博物館やイェール大学などのチームが、モンゴルの白亜紀後期のプロトケラトプス(鳥盤類・角竜類、図1)、ブラジルの三畳紀後期〜ジュラ紀前期のムスサウルス(竜盤類・竜脚類、図2)などの卵殻化石、卵殻化石周辺の堆積物をラマン分光解析で分析した結果である。

図1:プロトケラトプスの生体復元の一例(画:菅谷 中)

図3:アカウミガメのやわらかい卵殻の乾燥標本(筑波大学・田中康平博士提供)

ラマン分光解析はレーザーを照射し、散乱される光から分子レベルで構造解析を試みる手法である。この結果、プロトケラトプスとムスサウルスの卵殻はトカゲ、ヘビ、ウミガメなどに見られる、卵殻に石灰質の角柱層のない、「やわらかい殻」の卵だったことが明らかになった(図3)。

この研究では、恐竜の卵殻は元々やわらかかったのが、鳥類に近縁な獣脚類恐竜や一部の竜脚類、マイアサウラなどの鳥脚類はそれぞれ別々に硬い殻の卵へと進化していった可能性が高いと結論づけられた。

爬虫類の中で恐竜に一番近いのはワニ類である。ワニ類は硬い殻の卵を産む。鳥類も硬い殻の卵を産むことから、進化的にワニと鳥類の中間にいた恐竜は硬い殻の卵を産んだものだと想定されていた。うすくても殻が化石として残っていることから、これまでプロトケラトプスもムスサウルスの卵も硬い殻の卵だと見なされてきた。私もそう思い込んでいた。

9月15日号10月15日号のオヴィラプトルやシチパチは、硬い殻の卵を産んでいたから、親がその上に座ることが出来た。その結果として、鳥類に近縁な獣脚類と鳥類などでは抱卵や孵化後の世話のような高度な生態が進化していた。

今年6月に発表された研究の原点には、骨格の化石に比べると、恐竜の卵の化石が少ないのではないかという素朴な疑問があったそうである。私は卵の化石からその産み主を特定するのは難しいだろう、卵の中に生まれる前の恐竜の骨格が残っている確率は低いだろう、卵の研究は成果が出にくいだろうと、思い込んできた。

11月15日号の「総排泄口の形」、今号の「卵の殻の研究」のような、素朴な疑問を大切にしなくてはならないと、大いに反省している2020年である。


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