4月17日は、「恐竜の日」とされている。1923年のこの日、ニューヨークのアメリカ自然史博物館のロイ・チャップマン・アンドリュースたちが、モンゴルでの化石発掘のために北京を出発した。アンドリュースたちは、1923年6月23日、ゴビ砂漠から恐竜の卵の化石を発見する。それは世界初の恐竜の卵の化石」と発表され、注目を集めた。

ゴビ砂漠では卵の化石がたくさん見つかるが、それが誰の卵かは簡単にはわからない。たくさん見つかるということは、個体数の多い草食恐竜のものだろうとされ、たくさん見つかっていたプロトケラトプスという角竜のものだろうと考えられた。爬虫類である恐竜が、殻のある卵から産まれることは驚くことではないが、プロトケラトプスの骨格と一緒に展示された卵化石は、恐竜が卵を産んでいる様子をヴィジュアルにイメージづけることに成功した。

(図1)国立科学博物館に展示されているシチパチ(オヴィラプトル類)の復元骨格(レプリカ)。短い顎には歯が生えておらず、クチバシがあったと考えられている

同じ発掘中に、アンドリュース隊は肉食恐竜を発見した。この肉食恐竜の口は太く短い(図1)。歯の生えていないクチバシは、硬いものを割るのに適しているように見えた。この恐竜の近くから、あのプロトケラトプスの卵化石もたくさん見つかった。そのクチバシは卵の殻を割ることに使われたのではないかと考えられ、1924年、オヴィラプトルと名づけられた。

オヴィは卵、ラプトルはドロボウを意味する。草食恐竜の巣を荒らして卵を食べてしまう残忍なオヴィラプトルも、乾いた骨化石ながら、恐竜の生態を生々しく想像させる存在となり、化石の宝庫ゴビ砂漠への人々の関心と期待を大きなものにしていった(図2)。

(図2)発見当時の「卵泥棒」としての古いオヴィラプトルの想像図(画像提供:凸版印刷株式会社)

ゴビ砂漠は現代でも、毎年のように新種の恐竜が発見される、世界一級の恐竜化石産地である。恐竜の多様性や人口密度が高かったのだろうが、それ以上に重要なのは化石が発見されやすい環境だということである。ゴビ砂漠の大地のほとんどが白亜紀の地層で出来ていて、その地層がむき出しになっている。日本にも白亜紀の陸地の地層はあるが、その上には土壌がかぶり、その上には草が生えている。

ゴビ砂漠は乾燥していて風が強いので、草がほとんど生えていない。化石が地層から顔を出していれば、すぐに気がつくことが出来る。そして、自然が発掘まで手伝ってくれるのだ。吹きっさらしの地層は、その表面が毎年少しずつ削れていく。去年まで地表に露出していなかった化石が、今年はその姿を表して、人間が気がついてくれるのを待っている。もちろん、誰にも気がつかれずに風化侵食されてしまって、「土に還る」化石の方が多いはずだ。

私は「恐竜の日」にアンドリュース隊の北京出発の日が選ばれたことに、強い皮肉を感じている。アンドリュースたちは、もともとは人類のアジア起源説を検証するために、ゴビ砂漠に人類の化石を探しに旅立った日だからである。

―今号より毎月15日号で連載開始。

国立科学博物館・標本資料センター長
分子生物多様性研究資料センター長
真鍋まなべ 真まこと

1959年、東京都生まれ。

横浜国立大学教育学部卒業、米イェール大学大学院理学研究科修士課程修了、英ブリストル大学大学院理学研究科PhD課程修了。博士(理学)。

恐竜など中生代の爬虫類、鳥類化石から、生物の進化を少しでも理解しようと、心の中で化石と対話する日々をおくっている。博物館の展示の開発、特別展の企画・監修、書籍・図鑑等の監修を多く手がけている。2020年度から、群馬県立自然史博物館・特別館長を兼任。


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