国立科学博物館・標本資料センター長
分子生物多様性研究資料センター長
真鍋 真

恐竜は爬虫類だが、恐竜の子孫は鳥類である。だから、恐竜は爬虫類から鳥類がいつどのようにして進化したのかを知る手がかりである。また、恐竜の生態などは、その恐竜が現代の爬虫類と鳥類のどちらにどれだけ近いのかを考えることから推定することが出来る。恐竜が爬虫類と鳥類の中間にいたことは間違いないが、より爬虫類的だったのか、より鳥類的だったのかは簡単にはわからないことも事実である。

10月11日の日曜日、未就学児から小学生などを対象にした恐竜のオンライン講座があった。いろいろな恐竜の解説をする中で、本紙10月15日号でも紹介したオヴィラプトル類の抱卵の話をした。

オンラインでの質疑応答が終わってから、小学校低学年の女子から「恐竜のたまごはどこから出てくるのですか?」という追加の質問が送られて来た。わたしは、時間内に回答できなかった他の質問と一緒に、後日、回答集を作成することにした。

輸卵管や産卵口のような軟組織はなかなか化石に残らないので、直接の証拠は無いけれども、爬虫類の卵は総排泄口という尿や糞と同じところから出てくること、鳥類の卵も同じであることから、その間に存在した恐竜も総排泄口をもっていたと考えられると回答するつもりでいた。

その翌日、新しい投稿論文の原稿(プレプリント)がインターネットに掲示されているのを知った(注1)。ドイツのゼンケンベルグ自然史博物館には、中国の白亜紀前期の地層から発見されたプシッタコサウルスという角竜類の実物化石が展示されている。このプシッタコサウルス、尾に羽毛が生えていたのが化石に残っていることで有名な化石だ(図1)。

図1:プシッタコサウルスの生体復元の一例。(画:菅谷中氏)

この化石の腰の部分には軟組織まで化石に残っていて、総排泄口が確認できたそうだ。総排泄口はウロコで覆われていて、総排泄口の形状は鳥類よりもワニに近いことが確認できたそうだ(図2)。現代の爬虫類にはカメ、ワニ、トカゲ、ヘビなどがいるが、恐竜の系統的にもっとも近縁だと考えられるのがワニ類である。

図2:プシッタコサウルス骨盤部分を右側の後方から見たところ。尾椎の血道弓(上側)と骨盤の坐骨(右側)の間に総排泄口(白丸で囲んだ部分)が化石に残っていた
(Photo:Thomas G Kaye & Michael Pittman)

総排泄口については、プシッタコサウルスはワニ類に似ていることは系統的にはうまく説明ができそうだ。

一方では、尾にふさふさとした羽毛をもっているところは鳥類的である。恐竜の進化の中で徐々に鳥類的な特徴が増えていき、鳥類になっていく。しかし、プシッタコサウルスなどの角竜類は、恐竜の中では、特に鳥類に近縁なグループではない。もっと鳥類に近縁な恐竜の総排泄口はもっと鳥類的なのかもしれないが、プシッタコサウルスは総排泄口が確認された鳥類以外で初めての恐竜なので、まだ進化の全体像はわからない。

良い化石をつぶさに観察することの重要性はもちろんだが、軟組織だから化石に残らないと諦めてはいけないことに気がつかされる今日この頃である。

(注1)https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.10.11.335398v1(論文のプレプリントがダウンロードできます)。


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