半村 良

作家寄席集め 第33回 半村 良/恩田雅和

SF作品に波乱万丈の時代ものの伝奇小説を結び付け、伝奇ロマンのジャンルを確立した半村良(1933~2002)は、直木賞を受けた「雨やどり」など人情小説も手掛けました。

東京の柴又に生まれ、都立三中(現・両国高校)を卒業後、三十近い職業を転々としたあと、半村は広告代理店に職を得ました。かたわらSFを書きだし、1971年2月「お米平吉時穴道行」を『SFマガジン』に発表しました。

コピーライターの主人公が江戸期戯作者の山東京伝に魅せられて作品を調べ始めるという「お米平吉時穴道行」は、京伝の近くにいた平吉が書き残す古日記が発見されることでストーリーが展開します。そこに書かれていたお米が神隠しにあい謎が深まりますが、お米は200年のタイムトンネルをくぐって京子という名の新人歌手としてコピーライターの前に現れます。時代が錯綜する伝奇ロマンの兆しが既にみられる小説ですが、江戸落語中興の祖、烏亭焉馬の第一回咄の会が、お米も参加したといってしっかりと記されていました。

この作品は同年、同題で半村の初の単行本(短編集)として刊行されました。

注目すべきはそのあとがきで、「ひとくちに十人寄れば気は十色などと申しますが、SFのほうに致しましたところで、SFファンだからSFならなんでもいいかてぇとそうではございませんで」と噺家口調で述べられ、落語「気の長短」のマクラまで引用されています。「まあ、このたびやっとお許しが出まして、このような晴れがましい短編集……つまりは独演会でございますが、それをやらせて頂きまして、一応はこれで二ッ目と、そういう段取りになりましたようなわけでございます。」 独演会、二ッ目など寄席用語を一貫して使用し、初めての著書が出た喜びを表していました。

1987年から一年間雑誌連載された『小説浅草案内』は、昭和末の浅草を舞台に作者が実際に体験した近所付き合いや隣人の人情模様が細かく描写されています。

第一話で浅草のマンションに引っ越す際、親友の橘家円蔵に連絡し、弟子の二ッ目鷹蔵に手助けを求めるシーンがあります。第五話で、円蔵が二ッ目の舛蔵時代にコピーライターの作者がラジオコントを書きまくって提供した裏話が披露されており、舛蔵から月の家円鏡を経て大名跡を襲名したこの人気落語家と半村との深い絆と友情が明かされています。


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