くらしを守るために必要な視点 選挙結果の分析と今後の展望
- 2019/7/9
- 医療運動
2019年の大阪は大きな選挙が続いています。7月には第25回参議院議員通常選挙が行われます。10月実施予定の消費税の増税や、年金の問題、憲法改正や社会保障など、私たちの生活に大きく影響を及ぼす選挙です。そこで関西学院大学法学部教授の冨田宏治(とみだ・こうじ)氏に、この間の選挙分析と今後の展望についてお聞きしました。
選挙結果の分析と今後の展望
―この間、大阪では選挙が続きましたが、先生はどう分析されていますか。
大阪では大阪府知事・市長のクロス選挙(以下クロス選)、統一地方選挙や、衆院12区の補選、堺市長選など多くの選挙が続きました。いずれの選挙でも大阪維新の会(以下維新)が勝利を収めました。このことから「維新の支持が急拡大している」と言われていますが、まず冷静に得票数を見ることが重要です。
直近で行われた堺市長選の結果から見ていきます。堺市長選は維新の永藤英機氏が13万7000票を取り勝利を収めましたが、前回の堺市長選では13万9000票で逆に落選しています。今回は勝利したものの前回に比べると票数は減っているのです。また、前堺市長のスキャンダルがあり、維新はかなり有利な立場であったにも関わらず13万7000票に留まっているということです。つまり維新は組織票である13万票後半が確実に出せると同時に、それ以上の票を得るのは難しいことがわかります。
その前に行われた衆院12区の補選でも同じことが言え、維新の候補は6万票で当選しましたが、前回の衆議院選挙では6万4000票で落選しています。
クロス選の結果を招いた対抗勢力の組織的な弱さ
クロス選では大阪府知事選で維新の吉村洋文前大阪市長が約227万票と大量に得票し、対する小西禎一元府副知事の約125万票にダブルスコアの大差をつけました。ただ前回の府知事選挙と比較して、維新も25万票増やしているものの、対する反維新候補も実は20万票増やしています。
加えて227万票という数字も説明をすることができます。今回のクロス選の出口調査の結果、自民支持層の約5割、公明支持層の約2割、立憲野党支持層の約3割が崩れて維新に流れたと報道されました。
前回の参院選での維新の得票が約140万、自民が約76万、公明が約68万、民進・共産が合わせて約80万でしたから、自民支持層の半分の40万弱と公明の2割の15万弱、立憲野党の3割の約20万強が流れたとすれば維新の得票は220万近くなります。そのため、227万という数字は実はそれほど驚くようなものではなく、対抗する勢力が組織的に弱かったのです。
また、大阪市長選では松井一郎前府知事が約66万票を獲得し、約48万票を集めた柳本顕元市議の挑戦を退けました。これも前回の市長選と比較すると確かに維新は約6万票を伸ばしたものの、実は反維新候補も約8万票伸ばしています。
維新は分厚い組織票があり、取るべき票数を確実に取ることでこの間、大阪で勝利を重ねています。だからといって支持が急拡大しているかといえば、必ずしもそうではありません。この基本的な点を押さえておく必要があります。
人々の心に希望の灯をともす 諦めずに投票に行けば政治は変わる
投票率の上昇こそが鍵 大量の投票棄権層の心に届く対話を
―今度の参議院選挙では何がポイントになるとお考えでしょうか。
前回の大阪都構想の住民投票の際は、賛成69万に対して、反対が約70万票と上回り都構想を食い止めることができました。この住民投票と、ダブル選・クロス選などの間にある決定的な違いが投票率です。他の選挙の投票率は約5割程度ですが、都構想の住民投票の投票率は約67%にも上りました。普段は投票を棄権している方々が〝このときばかりは〟と投票所へと足を運び、都構想を食い止める ことに成功したのです。
同じように、かつて民主党が政権交代を果たした時には投票率は69%にも上りました。また、前回の衆院選で野党統一候補が勝利した選挙区は、負けた選挙区と比較して投票率が5~ 10%程度高くなっています。
なお前回の衆院選の得票結果をみても、自公維の得票は約2800万票で、立憲野党は2600万票獲得しています。この数字だけでも野党側は十分互角に闘えることがわかります。
ただ実際に野党側が勝利を収めるには普段政治に失望や諦めの気持ちを持ち、棄権に回っている大量の方々の足を、再び投票所に向けさせることが必要です。そのためには、風頼みではなく一人ひとりに声をかけ、選挙に期待感を持ってもらい心の奥にある希望の灯をともすことが重要です。
「憲法とくらし」が争点に 投票が政治を変える希望を紡ぐ
―普段投票で棄権に回っている方々へ期待感を持ってもらうにはどうすればいいとお考えでしょうか。
今回の選挙で何が希望の灯になるかということですが、一番大きいのが「改憲阻止」だと考えています。
安倍首相は改憲の機は熟したと述べましたが、その根拠は衆参両院で改憲勢力が3分の2の議席を占めていたからです。もし3分の2を割ってしまえば改憲の発議ができなくなります。ここまで改憲勢力が増えたのは3年前の参院選が主要因ではなく、6年前の参院選が原因です。この選挙で改憲勢力は89議席を占める大勝利を収めました。
大敗北となった原因は野党がバラバラに戦ったからです。この結果、1人区はほぼ全滅となりました。これに対して3年前の選挙ではまがりなりにも野党共闘が行われ、改憲勢力が前回獲得した89議席から77議席に留めることができました。今回の選挙は6年前の貯金となっている議席を争う選挙です。改憲勢力に87 議席を超えさせなければ3分の2に達することはできなくなります。
今回の参院選で改憲勢力の議席を減らせば減らすほど改憲は遠のきます。世論も基本的には現在の安倍首相の下での改憲には約6割が反対しており、「改憲は許したくない」という人たちの心に灯を灯せば、「改憲阻止」は現実的に可能な希望です。
最近では年金に関しても大きな問題となっています。2000万円貯金しないと老後は安心して暮らせないことや、年金削減の仕組みであるマクロ経済スライドなどへ批判の声が高まっています。また、消費増税についても「今上げるなんてとんでもない」と怒りの声が上げられています。
こうした年金や消費税などは私たちの「くらし」の問題です。いま、深刻なまでの生活破壊が行われており、このまま放置すればもっと大変なことになります。「くらしを守る選挙」を争点に前面に打ち出していけば、もう一つの希望の灯になると考えています。
3年前の選挙では旧民主党が「希望の党」に飲み込まれて丸々改憲勢力になりかねない事態になりました。最終的には立憲民主党が生まれて総改憲勢力化は防ぐことができ、野党共闘に向けた流れが進みました。しかし前回はただ選挙区の住み分けをしただけで、必ずしも本気の共闘とはなっていませんでした。
今回の選挙では、市民連合と5野党・会派による共通政策の合意が実現し32の選挙区で野党共闘が行われます。3年前よりも共闘が強まり、統一の度合いが高まっています。野党側が闘うための条件は前回よりも有利になっています。
大変な選挙ですが、「○○が強いから」「どうせ変わらないから」を理由に投票を棄権しても、何も変えることはできません。より良い社会を構築するために、何が重要かを訴えていけば人々に希望の灯がともり展望が開けます。是非保険医協会もそうした立場から発信をして欲しいと願っています。
―本日はありがとうございました。
関西学院大学 教授 冨田 宏治 氏
1959年生まれ。名古屋大学法学部卒業。同大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。関西学院大学法学部専任講師、助教授を経て、99年より同教授。日本政治思想史専攻。執筆・講演等も積極的に行っている。