2018年診療報酬改定答申に対する井上美佐副理事長談話
- 2018/2/16
- 私たちの考え
2018年診療報酬改定答申に対する
井上美佐副理事長(医療活動部担当副理事長)談話
中医協は2月7日総会を開催し、「平成30年度診療報酬改定」に係る答申を行った。
今回の診療報酬改定は本体プラス0.55%(約600億円)、薬価などでマイナス1.74%(約1900億円)、公称全体でマイナス1.19%とされているが、前回改定から“導入”された「外枠」部分に大型門前薬局の適正化などマイナス0.06%(約60億円)があり、実質はマイナス1.25%となった。
前々回改定から薬価引き下げ部分が本体部分に充当されなくなったが、医療の改善のために本体部分引き上げのためには、薬価引き下げ部分を完全に充当するべきである。
今次改定は「人生100年時代を見据えた社会の実現」「どこに住んでいても適切な医療・介護を安心して受けられる社会の実現(地域包括ケアシステムの構築)」「制度の安定性・持続可能性の確保と医療・介護現場の新たな働き方の推進」の基本認識を掲げ、第一に「地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進」をテーマにしている。
入院分野では厚生労働省は、「患者の状態や医療内容に応じた医療資源の投入がされないと、非効率な医療となる恐れや、粗診粗療となるおそれがある。」としているが、現場の医師は度重なるマイナス改定の中でも、患者に最善の治療を提供しようと専念しておりこのような考えは容認できない。
所謂「2025年問題」を重要視する一方で、地域の医療提供体制を「診療実績」により選別する方針を押し進めることは、医療費の増加を恐れるあまり、今在る医療提供体制を危うくするものであり、特に増加する老人の入院医療を一定範囲に抑えるように強要するものである。
具体的には、医療の「基本的な評価部分」と診療実績に応じた「段階的な評価部分」との二つの評価を組み合わせた新たな評価体系を導入するとして、急性期入院の分野では、一般病棟の7対1入院基本料と10対1入院基本料を急性期一般入院基本料として再編し、基本的な看護配置は10対1として、これに、重症度、医療・看護必要度による点数を7段階に分けるものである。
これまでの診療報酬が「療養の給付の対価」であることを踏まえた、人員配置等を中心とした体系から「診療実績」に応じた評価に軸足を移す抜本的な変更である。地域の病院はこれらの「診療実績」の要件を満たすために、これまで以上に「どんな患者を受け入れるか」が経営上の課題となり入院患者の選別につながることが懸念される。
一方、「外来医療の機能分化、かかりつけ医の機能の評価」として、地域包括診療料・加算や在宅時医学総合管理料等を届け出ている医療機関に初診料の「機能強化加算」を新設した。こうした医療機関は専門医療機関への受診要否の判断を含めた対応を求められることだけでなく、急性期入院料を算定する病院への入院をコントロールする役割も担わされる。(併せて紹介状なしの受診への定額負担を一般病床500床以上から、許可病床400床以上に対象を拡大し、さらに患者が受診できないようにされている。)また地域包括診療料・加算等の医師配置基準などの要件を緩和した上で、一定の基準(在宅への移行実績を評価など)を維持することで「主治医機能」から「かかりつけ医機能」の強化への転換を狙っている。
これらは、平成25年8月6日の社会保障制度改革国民会議報告書に示された「新しい提供体制は、利用者である患者が大病院、重装備病院への選好を今の形で続けたままでは機能しない」「医療機関間の適切な役割分担を図るため、『緩やかなゲートキーパー機能』の導入は必要」「大病院の外来は紹介患者を中心とし、一般的な外来受診は『かかりつけ医』に相談することを基本とするシステムの普及、定着は必須」とする、とした方針をストレートに具体化したものである。
そもそも「かかりつけ医」としての役割をすでに担っていると自覚している多くの開業医にとって、戸惑いが隠せずにいる。また、これらの点数を算定することによって、「一医療機関の算定制限」「24時間の往診・連絡受付体制」といった要件に縛られることから、対応しにくいとの声が寄せられている。要件をつけて点数を新設するより、地域医療を担う開業医の基本診療料の引き上げこそ必要ではないか。
2018年診療報酬改定へ向けて、改善要望を求めていた主たる3つの点について、一定の要求が実現したことは好ましいことであるが、それぞれに問題を残した。
一つ目は、在宅患者訪問診療料が複数医療機関で算定できるとされたことは、これまで訪問診療において連携を妨げていた内容が改善される第一歩となるもので、歓迎したい。しかし、「他の医療機関の依頼を受けて訪問診療を行った場合の点数」は、月1回しか算定でできないとされている。「このままだと十分な医療が提供できない」との声が多数寄せられている。患者の病態に応じて、月に複数回の算定を認めるべきである。
二つ目は、要介護被保険者等への「維持期リハビリテーション」は、2018年度末までとされ、それ以降は介護保険に移行されることが示された。1年間の延長が行われたという点からすれば一定の声が届いたといえようが、完全移行への要件が示されたことは遺憾である。あくまでリハビリは医療であり、維持期であれ、限度額が決められ十分な人員要件とはいえない介護報酬での対応ではなく、患者の病態に応じたきめ細かな治療をするためには医療保険での給付を引き続きすべきである。
三つ目は、ヘパリンナトリウム等の血行促進・皮膚保湿剤の保険給付制限がされなかったことについては医療現場から安堵の声が寄せられている。しかし、「疾病の治療であることが明らかであり、かつ、医師が当該保湿剤の使用が有効であると判断した場合を除き、」と要件が入れられ、「審査支払機関において適切な対応がなされるよう周知する。」とされていることから、審査が厳しくなるのではないかとの懸念の声が出されている。いずれにしても、美容目的などの疾病の治療以外を目的としたものについては、保険給付の対象外であることの明確化は当然のことであり、さらに患者・国民に対しても啓発活動を行うべきである。
今回、注目された「遠隔診療」ではオンライン診療料、オンライン医学管理料等が新設することが示された。緊急対応等の医療安全、患者の個人情報の流出の恐れ、オンライン診察に対する客観的なデータは少なく、有効性や安全性等が十分確保されるかは疑念が残っており、医学的エビデンスに基づく十分な審議がなされていない。また現場の医師は聴・打診、触診、患者の何気ない仕草や雰囲気など患者の状態全体から得られる情報を総合的に診て、治療方針を決定している。画面を通したやり取りだけでは不十分だとの声が寄せられている。こうしたことから拙速な保険給付はやめるべきである。
処方箋においては、様式に新たに「分割調剤指示に係る処方箋」が追加され、ルールの明確化が行われ、推進する方針である。医師の診察を事実上薬局の管理に矮小化する形となる分割処方箋の導入は、患者の健康確保上から極めて問題が多い。投薬では向精神薬多剤処方の制限がさらに強化される。医師の裁量権を無視し、三回連続の制限強化で許されるものではない。
大阪府保険医協会は、地域医療を充実したものにするため、診療報酬の引き上げ・改善、そして患者負担の軽減を求めていくものである。
2018年2月16日