「支払基金改革」に対する見解
- 2017/12/11
- 私たちの考え
報道関係各社各位
大阪府保険医協会は11月30日の理事会において
「支払基金改革」に対する「見解」を採択しました。
「支払基金改革」に対する見解
厚労省と支払基金は7月4日、審査の9割をコンピュータチェックで完結し、審査委員会の関与を1%とする方針などを盛り込んだ「支払基金業務の効率化・高度化計画」(以下「計画」)を発表しました。今回の「計画」が私たち保険医にとってどのような影響をもたらすか、この間、会内で学習会を行い、議論してきたなか、この度、大阪府保険医協会理事会で以下の見解をまとめました。
「計画」は保険診療のあり方の否定
「計画」ではコンピュータチェックの高度化により段階的に審査を完結することを掲げ、医療機関で事前にチェックができる仕組みを導入するとしています。そしてAIをフル活用して審査能力全体の向上により、審査の9割をコンピュータチェックで完結し、審査委員会の関与を1%とする方針を示しています。
これは患者の病気を治すために現物を給付する保険診療のあり方を否定するものです。なぜなら、患者の病気には複合的な要素があり、個々の診療の内容は臨床現場で判断され、適切な医療行為がされることで健康維持が保障されるものですが、それを否定することにつながるからです。つまり、医療内容をコンピュータにインプットされた基準に合わせることになり、その結果、必要な医療を否定され診療を制限することになりかねません。もともと医療は不確実性を有しており、そのため画一的に判断できないために三者構成の審査制度が確立した歴史があります。
「計画」と“審査の透明性”は別問題
私たちは、個々の必要な医療は、まず現物給付され、出来高払いで請求し、専門家である医師の審査委員の判断により審査されることで質についても担保できると考えます。
しかし、保険医の感情として、現在の審査は不公平ではないかという意見もあります。審査委員の問題は別に議論すべきです。さらに「計画」の一部に審査情報の公開、返戻査定理由を明確化するとありますが、これらは審査の透明性の観点から、私たち保険医が以前から望んできたことであり、この「計画」とは別に対応すべきことです。
また医療機関での事前チェックが導入され、その基準が統一化されれば、患者の病態による治療の多様性が否定されます。そして、基準を超える医療行為は保険が利かなくなり、安易に「自費徴収したほうが良いのではないか」という雰囲気が広がることにもなりかねません。そういう状況になれば、混合診療の解禁へ導かれることも考えられ、保険医療縮小につながりかねません。
また、三者構成についても、本質が変わるかもしれません。重点審査の審査決定に対して診療担当者代表と保険者代表の意見が相違した場合に、中立な立場にある公益委員に判断をゆだねる仕組みを作るとし、その中立な立場にある委員を原則、公的医療機関等の勤務医等から選出し、保険者代表の審査委員も同じく公的医療機関等の勤務医等から選出するとしています。三者構成からなる委員の対等平等の立場が崩される恐れがあります。
支部間の“差異”は否定されるものではない
支部間・審査支払機関間の差異が問題視されていますが、レセプトデータなどの“見える化”により、コンピュータでチェックするために、これらの差異をなくしていくことも目的としています。
しかし、支部間格差(都道府県格差)は、北から南に長く連なる日本列島においては亜寒帯、温暖湿潤気候、亜熱帯と気候の違い等の自然環境や都市部と地方での社会生活環境により患者の疾病特性が存在することから否定されるものではありません。
支部の統合はすべきではない
今回の「計画」では、支払基金の支部組織の集約化の問題もあります。支払基金には各都道府県に支部がありますが、このことで患者の病態の地域特性を踏まえた審査が実施されるのであり、それを担保する審査委員を支える支払基金職員の削減や支部の統合はすべきではありません。
大阪府保険医協会は、これまで積み上げてきた国民皆保険制度の現物給付、保険で良い医療を行うことを否定することにつながる「支払基金業務効率化・高度化計画」は白紙撤回し、真に国民医療に貢献すべき支払基金改革の実現のために、国民的(又は「医師自らが中心となって」)議論をすべきであると考えます。
2017年11月30日 大阪府保険医協会理事会