【特集:11月22日大阪府知事・大阪市長選】住之江区医師会・松嶋会長に聞く
- 2015/10/15
- 私たちの考え
市長候補に“現地建替え”を求めたい
住吉市民病院の廃止問題
最初に住吉市民病院が果たしてきた役割についてお聞かせください。
医療を一極集中させ、医療設備・医療水準も最先端にするため、6ヵ所の市民病院を統合し、1993年に大阪市総合医療センターが創設されました。小児・周産期医療が不足する南部医療圏には住吉市民病院を残して、140床に増床し、耐震化して現地建替えが市議会で可決され、着工を待っていました。
建替え計画の実施待ちだった2011年12月に平松氏を破って市長に就任したのが「二重行政の解消」を訴える橋下徹氏でした。橋下市長はどんな方針を示したのでしょうか。
橋下市長は就任直後の2012年5月に住吉市民病院を廃止して府立急性期総合医療センター(住吉区)内に府市共同母子医療センター(仮称)を新設して機能統合すると打ち出しました。
橋下市長は「二重行政の解消」、「2kmしか離れていない」ことを理由に挙げましたが、直線2kmを結ぶ交通網は無く、府立へ行くには大きく迂回し、乗り換えも3~4回必要となります。住吉市民病院小児科は、住之江区・西成区で小児・周産期医療の入院可能な唯一の病院で、二次救急を担当し、府立急性期総合医療センター小児科は三次救急を担当し、2つの病院が役割を分担し南部医療圏を維持してきました。全く乱暴な合体です。
地元の住之江区医師会や住民が取り組んだ市民病院存続を求める署名は7万筆を超え、大きな運動に発展しました。橋下市政にどのような影響を与えたのでしょうか。
私たちの廃止反対の声にに押される形で、2013年3月に橋下市長が市議会に提案・可決された住吉市民病院廃止条例には、「現行の住吉市民病院の機能存続と南部医療圏の小児・周産期医療の充実のため、民間病院を市長が責任をもって誘致する」付帯決議が採択されたのです。市は決議に従い、2度にわたって民間病院事業者の公募を行いましたが、名乗りを上げた医療法人の辞退などで決定には至りませんでした。
それでも橋下市長は予定通り住吉市民病院の廃止を強行しようとしましたが、地元の反対で2018年3月末まで2年延期することを表明しました。
仮に“民間病院誘致”が実現しても医療の質の低下で地域医療は守れない
今年9月になって誘致する民間病院事業者が決まったと橋下市長は発表しました。この決定をどのように評価されますか。
民間病院事業者は、そもそも小児・周産期医療を担った実績がありませんし、また提案する医療内容が低過ぎます。また、長期にわたり、小児・周産期医療の継続を保障するため、50年の賃貸契約を結ぶとされていました。
ところが、土地は事業者に売却され、10年経過すれば事業者が自由にできるという、民間病院事業者にとって都合の良い “解釈”にかわっています。これでは付帯決議にある「市長が責任を持って小児・周産期医療を担う民間病院を跡地に誘致する」ことになりません。
さらにベッド数は小児科が現在の61床から10床に、産科は35床から14床に大幅に縮小されます。小児科医は現在の8人から3人、産科医は5人から3人に減少します。また、現在住吉市民病院と府立急性期総合医療センターの小児科で計111床ありますが、これが府市共同母子医療センター(仮称)の計画では小児科には79床しかありません。これでは小児救急への対応ができません。
しかも最初の公募で応募し、辞退した民間病院事業者は、小児科の常勤医師9人以上の配置が必要など厳しい施設基準の「小児入院医療管理料2」の算定を目指していました。しかし、小児科医の配置が少ない今回の民間病院に高度な医療は望めません。
不採算な小児・周産期医療を、民間病院が担うことが難しいのは明らかで、「民にできないことは官でやるべし」です。
住吉市民病院廃止問題が争点の一つとなった「大阪都」構想について、どのように受け止めておられたのでしょうか。
府市統合の“成果”として住吉市民病院という「社会共通資本」を奪うことは、その地域から将来の繁栄を奪うことを意味します。そして、南部医療圏の小児救急医療が後退します。住之江区医師会として「大阪都」構想に反対を決議しました。ポスターを作成し、なぜ医師会が反対なのかを患者さんや市民に訴えました。ポスターの反響は絶大でした。
また、「都」構想反対集会にも住之江区医師会を代表して参加しました。私たち医師会も「都」構想の阻止に貢献できたと思っています。
結局、「大阪都」構想とは橋下市長の「独裁」と「大阪市の保有資産の没収」が目的です。
11月に行われる大阪市長選挙の争点について、先生のお考えをお聞かせください。
橋下市長率いる大阪維新の会は住民投票で否決された「都」構想を再び争点にしようとしています。橋下市長は1つの価値判断しかなく、思いつきで政治を行っているように見えます。発言がコロコロ変わります。出直し市長選挙や「都」構想をめぐる住民投票で税金が無駄遣いされ、経済政策がストップしました。振り回される住民には、大変な迷惑と損害です。
市民病院廃止問題は大事な争点です。市長候補には民間病院誘致計画は止め、現地建替えをマニフェストに入れていただきたい。大阪市長選では、市民の皆様に判断のための材料を医師会として提供していきたいと考えています。
住吉市民病院をめぐる最近の動き
~2011年12月 | 平松邦夫市長の任期中、市民病院の現地建替えを決定 |
2011年12月 | 市長選で橋下徹氏が平松氏を破る |
2012年5月 | 橋下市長が市民病院を廃止し、府立急性期総合医療センター(住吉区)内に府市共同母子医療センター(仮称)を新設して機能統合すると表明 |
この間市民病院存続を求める署名が7万筆を超える | |
2013年3月 | 市民病院廃止条例可決。同時に市の責任で跡地に民間病院を誘致する付帯決議を採択 |
2015年3月 | 橋下市長、2016年3月末の市民病院廃止を2年延期するよう市保険局などに指示 |
2015年5月 | 「大阪都」構想、住民投票で否決。橋下市長、任期満了での引退を表明 |
2015年9月 | 橋下市長、跡地に誘致する民間病院事業者を公表 |
2015年11月 | 大阪府知事・大阪市長選挙 |