医療の市場化につながる官邸主導による「遠隔診療」の導入に反対する
- 2017/9/4
- 私たちの考え
医療の市場化につながる官邸主導による
「遠隔診療」の導入に反対する
2017年8月26日
大阪府保険医協会
成長戦略に位置付けられた「遠隔診療」
政府は、6月9日に閣議決定した「未来投資戦略2017」でビッグデータやAIなどを活用した「新しい健康・医療・介護システム」を確立するとしており、このシステムの中にICT(情報通信技術)を活用する「遠隔診療」が組み込まれている。その本質は、医療を市場としてとらえ、ビッグビジネスチャンスの拡大、成長戦略として位置付けるものである。
医師の専門性を軽視して進められる範囲拡大
この間発出された厚生労働省通知は、医師法第20条の対面診療の原則を覆して「遠隔診療」を可能とし、実施できる範囲を離島・僻地から都市部にも拡大、「遠隔診療」での処方せん発行、郵送による送付での処方せん料の算定を認めた。また、今年7月には保険者が実施する禁煙外来について「遠隔診療」のみでも可能であるとし、更には、今年度中に遠隔での死亡診断を可能とするとの報道もされている。「遠隔診療」を認める範囲が短期間で広げられているが、通知発出に至る議論は不透明である上に、医療のプロフェッショナルである医師の行為が軽視されており、医療現場から疑問の声も上がっている。
対面診療の重要性を訴える現場の声を無視すれば医療崩壊につながる
「未来投資戦略2017」では、「遠隔診療」に対して、生活習慣病など具体的項目を挙げて次期診療報酬改定で評価を行うとしており、医療政策を担う厚生労働省・中医協での議論が十分なされないまま、首相官邸主導の決定を受け、「遠隔診療」を診療報酬で新設する話も出ている。
診療報酬については、国民医療を担う医師の技術料として正当に評価されるべきである。政府関係者が、2018年度改定が引き上げどころかマイナスとなる見込みと言いつつ、一方で医療に市場原理を持ち込み、ビジネスチャンス拡大のために「遠隔診療」の点数を新設することに私たちは反対である。
また、勤労者・国民の利便性や患者の受診機会が向上すると謳われ、すでに「遠隔診療」が促進されているが、受診機会が阻害されている原因は、労働環境や低賃金労働、連続して引き上げられてきた一部負担金等によるものである。医療制度の在り方や社会システムに問題があるのであり、「遠隔診療」のような小手先の技術で解消できるものではない。
医療界からは、すでに「遠隔診療は対面診療の補完的位置付けである」とする考え方が表明されており、当会が実施した会員アンケートでも、対面診療の重要性を訴える声が多く寄せられている。医師は聴打診、触診、患者の何気ない仕草や雰囲気など全体から得られる情報を総合的に診て、治療方針を決定しており、大多数の医師は画面を通したやり取りでは不十分だと感じている。こうした医療界の声を無視して官邸主導で「規制緩和」が進められれば、厚生行政がねじ曲げられ、国民にとって良質な医療が担保されないばかりか、保険診療自体が崩壊の危機に陥ることが懸念される。
患者本位の医療に資するものであるかの視点で民主的な議論を
当会も加盟する全国保険医団体連合会は「開業医宣言」の中で、医療の基本姿勢として、全人的医療への努力、患者との対話を重視することを掲げている。より良い医療を確立するため、新しい技術が患者本位の医療に資するものであるかの判断は、市場原理ありきの不透明な手順ではなく、患者・国民の意見を十分尊重し、行政における民主的な手続きを経て結論を出すべきである。
よって、私たちは、首相官邸主導で進められる「遠隔診療」の導入に反対するものである。
お問合せ先 大阪府保険医協会 ☎06-6568-7721