地域医療を支える医療機関の存続ために診療報酬引上げを求める

2015年11月30日
大阪府保険医協会
経営税務部長
安藤 元博

 厚生労働省は、11月4日中医協に2016年診療報酬改定の基礎資料となる「第20回医療経済実態調査(以下、実調)を報告した。同調査は14年4月から15年3月末までに終了した事業年(以下、14年度)と13年4月から14年3月末までに終了した事業年(以下、13年度)の2期について調査したもので、有効回答率は病院が52.9%、一般診療所52.6%であった。

損税問題の解決が急務である

医療法人を含めた個人診療所全体(入院収益なし)を13年度と14年度で比較すると医業収益全体では▲0.1%となり、保険診療収益も“微減”している。一方、支出の面からみると医薬品費が減少しているものの、人件費・材料費・委託費は軒並み増加し、損益差額で見ても▲0.5%と収益状況は悪化している。また、入院収益のある病院では医業収益こそ+1.6%になっているものの、医薬品費・人件費・委託費など支出が軒並み増加した結果、損益差額は▲1.3%と悪化している。今回の実調の結果は物価上昇や人件費上昇に伴う支出増、特に病院においては設備投資や物品購入に際して発生する控除対象外消費税の負担などが医業経営を圧迫し、医療機関の収益を悪化させていることを如実に示している。

実調の手法・分析に関しても、非定点調査、低い有効回答率や平均値を基準とし、中央値・最頻値を考慮しない等の統計学的な誤り、事業所得と個人所得(いわば可処分所得)・個人立と法人とを混在させていることなど従来から多くの重要な問題点が指摘されてきた。しかし、一番の問題はこうした偏りのある結果が医療費削減(診療報酬引き下げ)の材料にされていることである。

「引き下げありき」ではなく、現実を見よ

次期診療報酬改定に向け、10月30日の財政制度等審議会が早々に「一定程度のマイナス改定が必要」と提言した。しかし、今回の実調の結果を見る限り、これ以上のマイナス改定は地域医療を支える医療機関の存続を危うくし、ひいては地域医療の崩壊を招く。さらに2017年4月には消費税10%への引上げが予定されており、拡大する控除対象外消費税の存在は医療機関の経営はますます圧迫し、この問題を放置したままいたずらに消費税増税と診療報酬の引き下げを断行することは、すなわち政府から医療機関への死亡宣告を意味する。現実に、全国の国立大学附属病院が2014年度決算で、消費税8%引き上げによる損税負担を主因に合わせて84億円の赤字を計上したとの事実からも医療機関にとって損税問題はこれ以上放置できず、体力の少ない中小病院、ひいては診療所にとっては存亡に関わる重大な問題になっていることは明らかである。

大阪府保険医協会は次期診療報酬改定の際には「引き下げありき」ではなく、地域医療を支える医療機関の存在を正当に評価し、プラス改定することを要求する。また、消費税10%引上げの際の控除対象外消費税の問題は、診療報酬による補填ではなく、これ以上医療機関に負担を押し付けない「ゼロ税率」の適用など税制による解決をのぞむものである。


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