中止でも違約金は発生しない―直ちに決断すべきだ

最近様々な媒体で話題になっているのが、日本側から五輪中止を言い出した場合に、IOC(国際オリンピック委員会)から違約金や賠償金が請求されるのではないか、という議論である。だが、そもそも違約金と賠償金は意味が大きく異なるので、その違いから解説しよう。

開催都市契約書で見る「違約金」と「賠償金」

まず違約金とは、日本側から五輪中止を言い出した場合に、IOCから日本の組織委に対して請求されるのでは、とされるカネのことだ。この問題を検証するにはHCC(開催都市契約書、東京都のHPに記載)を読む必要があるが、そこには違約金についての記述、項目は全くない。

また、この点を熟知している立場にある組織委の武藤事務総長も、5月5日のTV東京系ワールド・ビジネス・サテライトという番組で、中止に伴う違約金はないと明言している。

つまり、開催都市契約には開催中止を理由にした違約金の請求という概念自体が存在しないし、武藤氏の発言からも、その可能性はまったくないと考えられる。違約金問題は、そもそも存在しないのである。

人通りもまばらな新国立競技場の外観

これに対し、こうした契約につきものの不可抗力条項がないから、何かしらの損害賠償が発生する可能性があるとする関係者がいる。しかし、一度でも読めば分かるが、HCCはIOCのあらゆる責任を免責している極めて不平等な契約であり、IOCに不利になる不可抗力条項など、あるはずがないのだ。

さらに言えば、HCCには延期に関する条項もない。だが一年前、IOCはコロナ禍を認めて延期に合意したのだから、同じ理由で中止を提案すれば、かたくなに拒否できるような立場にない。政府関係者の間でも「多額の開催経費を投じてきた日本側に賠償金を請求すれば、IOCは国際社会に批判され、今後、五輪開催に名乗りを上げる都市はなくなる(5月15日毎日新聞)」と語られているが、これはその通りだ。

IOC以外からの賠償請求はありうるのか

それでも「賠償金ガー」という人々がいるが、そういう人は、そもそもIOCが何の名目で日本側に賠償金を立てる(請求する)のか、きちんと説明できていない。よく言われるテレビ放映権は、IOCが米NBCと契約しているのであり、日本側との直接契約はない。そしてIOCとNBC双方は保険に入っていて、たとえ開催中止になってもそれで賄われると報道されている。

また、スポンサーが賠償請求する可能性だが、これも限りなく低いと思われる。ゴールドカテゴリーなどの主要なスポンサー企業は4年以上前から契約しており、その間ずっと五輪マークをつけて販促活動をしてきた。つまり、ブランドイメージ向上にはすでに十分役立ったと考えられ、損失額の策定は非常に難しいからだ。

そもそも、違約金や賠償金を払うのは損だから五輪は開催すべき、という考え方自体が間違っている。

現在、国民の8割近くが開催に反対しているのは、開催によって感染が激増し、国民の生命が危険にさらされることを懸念しているからだ。つまり開催中止は国民の生命を守ることに直結しているのであり、賠償金云々と同列に論じること自体がおかしい。国民の命を、あるかないか分からない請求を惜しんで天秤にかけるなど、論外ではないか。


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