〈第16回〉維新10年の「改革」は大阪に何をもたらしたか

大阪都構想の「ウソ」を明らかにするのが本連載の趣旨だが、まずは、大阪維新の会が発足から10年で大阪に何をもたらし、何を切り捨てたのかを考えてみたい。維新の「改革」の方向性は、都構想とも密接に関わるからである。

新型コロナ禍による緊急事態宣言が解除された5月末、「維新下の大阪を往くツアー」と称し、数人で大阪市内6カ所を巡った。

IRと万博会場が造成されている夢洲は、今は広大な更地にプレハブ小屋があるのみ

まず、IRと2025年万博会場が造成中の夢洲。ここは維新の言う「成長」を象徴する場所だ。カジノにエンタメ、国際会議。アジアの富裕層を呼び込み、グローバルマネーが集まる一大観光地にするという、文字通り夢のような将来像が描かれている。

今は広大な更地にプレハブ小屋があるのみだが、カジノ立地が正式に決まれば、隣の舞洲のごみ処理場も真っ青のド派手な不夜城が建つのだろう。「カジノは目立ってナンボ。欲望を刺激する悪趣味を追求するでしょう」と、その世界に詳しい同行者は言う。

だが、コロナ禍は世界中のカジノ業者を直撃した。最大手のラスベガス・サンズは日本進出を断念。大阪はMGM・オリックス連合が手を挙げているが、楽観はできない。オリックスのCEOは「良い投資なのか再検討する」と計画の見直しを示唆。開業時期も大幅に遅れる見通しだ。

しかし、吉村洋文知事は「見直すつもりはない」と言い切る。カジノの税収やインバウンド収入の皮算用が、都構想の財政計画を支えているからだろう。

コロナで大阪から外国人観光客が消えたが、ホテルの建設ラッシュは止まらない。府内の客室数はこの10年で2倍の約10万室に増え、明らかに供給過剰だ。

新今宮駅前では、星野リゾートが436室の大型ホテルを建設中。社長は「インバウンド消失は決定的な打撃じゃない」と強気だが、多くのホテル業者は悲鳴を上げ、売却や撤退の動きもある。外国人に大人気だった大阪城へ行くと、公園は閑散、クールジャパンを掲げる3つの劇場は公演中止で閉鎖されていた。

公園の民間委託によって消費を存分に楽しめる商品化された空間の「てんしば」

医療や人権よりも開発と消費を重視

逆に、民間委託で「てんしば」となった天王寺公園は、すごい賑わいだった。自粛に飽きたのか、芝生で家族連れやカップルがくつろぎ、カフェやレストランも混雑している。美術館と動物園だけの公園よりも、消費を存分に楽しめる商品化された空間。それこそが維新の言う「成長」や「活性化」であり、支持される理由なのだと感じる。公園の民間委託は、今後も府内で続々と進むだろう。

一方、二重行政の象徴として廃止された住吉市民病院は解体工事中。跡地に民間病院を誘致する話は頓挫し、小さな診療所になっていた。橋下徹市長時代に展示内容が気に入らないと横槍が入り、土地の返還訴訟を起こされた大阪人権博物館は移転が決まり、現地で最後の無料公開中だった。

医療や人権や公共空間を守るより、大規模開発と観光依存。民営化と商品化。イベントと消費で演出する好景気と経済成長のイメージ。それらを「改革の成果」と喧伝し、維新は都構想住民投票へ突き進んでゆく。それでよいのだろうか。

―次号につづく

筆者プロフィール

ノンフィクションライター/松本 創

1970年大阪府生まれ。神戸新聞記者を経てフリーランスに。関西を拠点に政治・行政、都市や文化などを取材し、ルポやインタビュー、コラムを執筆。著書に『誰が「橋下徹」をつくったか─大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞)、『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社、第41回講談社本田靖春ノンフィクション賞)など。


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