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- 「都構想」!?どこがウソ!?市解体の実態を探る
- 〈第16回〉維新10年の「改革」は大阪に何をもたらしたか
〈第16回〉維新10年の「改革」は大阪に何をもたらしたか
- 2020/8/5
- 「都構想」!?どこがウソ!?市解体の実態を探る
大阪都構想の「ウソ」を明らかにするのが本連載の趣旨だが、まずは、大阪維新の会が発足から10年で大阪に何をもたらし、何を切り捨てたのかを考えてみたい。維新の「改革」の方向性は、都構想とも密接に関わるからである。
新型コロナ禍による緊急事態宣言が解除された5月末、「維新下の大阪を往くツアー」と称し、数人で大阪市内6カ所を巡った。
まず、IRと2025年万博会場が造成中の夢洲。ここは維新の言う「成長」を象徴する場所だ。カジノにエンタメ、国際会議。アジアの富裕層を呼び込み、グローバルマネーが集まる一大観光地にするという、文字通り夢のような将来像が描かれている。
今は広大な更地にプレハブ小屋があるのみだが、カジノ立地が正式に決まれば、隣の舞洲のごみ処理場も真っ青のド派手な不夜城が建つのだろう。「カジノは目立ってナンボ。欲望を刺激する悪趣味を追求するでしょう」と、その世界に詳しい同行者は言う。
だが、コロナ禍は世界中のカジノ業者を直撃した。最大手のラスベガス・サンズは日本進出を断念。大阪はMGM・オリックス連合が手を挙げているが、楽観はできない。オリックスのCEOは「良い投資なのか再検討する」と計画の見直しを示唆。開業時期も大幅に遅れる見通しだ。
しかし、吉村洋文知事は「見直すつもりはない」と言い切る。カジノの税収やインバウンド収入の皮算用が、都構想の財政計画を支えているからだろう。
コロナで大阪から外国人観光客が消えたが、ホテルの建設ラッシュは止まらない。府内の客室数はこの10年で2倍の約10万室に増え、明らかに供給過剰だ。
新今宮駅前では、星野リゾートが436室の大型ホテルを建設中。社長は「インバウンド消失は決定的な打撃じゃない」と強気だが、多くのホテル業者は悲鳴を上げ、売却や撤退の動きもある。外国人に大人気だった大阪城へ行くと、公園は閑散、クールジャパンを掲げる3つの劇場は公演中止で閉鎖されていた。
医療や人権よりも開発と消費を重視
逆に、民間委託で「てんしば」となった天王寺公園は、すごい賑わいだった。自粛に飽きたのか、芝生で家族連れやカップルがくつろぎ、カフェやレストランも混雑している。美術館と動物園だけの公園よりも、消費を存分に楽しめる商品化された空間。それこそが維新の言う「成長」や「活性化」であり、支持される理由なのだと感じる。公園の民間委託は、今後も府内で続々と進むだろう。
一方、二重行政の象徴として廃止された住吉市民病院は解体工事中。跡地に民間病院を誘致する話は頓挫し、小さな診療所になっていた。橋下徹市長時代に展示内容が気に入らないと横槍が入り、土地の返還訴訟を起こされた大阪人権博物館は移転が決まり、現地で最後の無料公開中だった。
医療や人権や公共空間を守るより、大規模開発と観光依存。民営化と商品化。イベントと消費で演出する好景気と経済成長のイメージ。それらを「改革の成果」と喧伝し、維新は都構想住民投票へ突き進んでゆく。それでよいのだろうか。
筆者プロフィール
ノンフィクションライター/松本 創
1970年大阪府生まれ。神戸新聞記者を経てフリーランスに。関西を拠点に政治・行政、都市や文化などを取材し、ルポやインタビュー、コラムを執筆。著書に『誰が「橋下徹」をつくったか─大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞)、『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社、第41回講談社本田靖春ノンフィクション賞)など。