〈第12回〉看板倒れの制度設計を市民に押し付ける構想

フリージャーナリスト 幸田 泉

大阪都構想は「二重行政の解消」と「ニア・イズ・ベター」が看板だ。政令指定都市の大阪市を廃止するので「大阪府と大阪市の二重行政が無くなる」。人口270万人の大阪市を60万~70万人ぐらいの特別区に4分割するので、「人口規模が小さくなり市民の声が行政に届きやすくなる」のを「ニア・イズ・ベター」だと言う。しかし、出来上がった制度設計は、ヒトとカネの両面から看板倒れと言うほかない。

大阪市廃止後も「24区役所は残る」という大ウソ

 大阪市の廃止に多くの市民が不安を感じるのが、福祉の窓口になっている区役所の存在だ。大阪市は政令指定市なので24 行政区に区役所がある。特別区になると行政区がなくなるので身近な福祉窓口の区役所もなくなる、となれば市民生活は今より不便になる。

 大阪都構想の制度設計を話し合う「大都市制度(特別区設置)協議会」(通称、法定協議会)では、大阪市の廃止後も、現在の区役所機能は維持するとした。政令指定都市の行政区は無くなるが、旧行政区を地域自治区とし、区役所は地域自治区事務所として残すという。一見、市民サービスは低下しないようだが、特別区の職員体制全体を見ると、「区役所機能は今のまま」が大ウソだと分かる。

 そもそも大阪都構想では、特別区に「中核市並みの権限を持たせる」としている。特別区の職員体制は、大阪市の近隣中核市6市の職員数を基にし、中核市並みの業務に対応できる職員数をはじき出した。しかし、政令指定都市の区役所と同様の業務をする出先機関を市内に6つも7つも設置している中核市はない。大阪都構想の描く特別区は全体の職員数は中核市モデルで考案されているが、中核市にはない地域自治区事務所という出先機関に手厚く職員を配置する構造になっており、特別区本庁の職員配置がスカスカ状態なのである。

  大阪都構想を実現したい「大阪維新の会」と、維新の支配下にある法定協議会は、「区役所は残ります。今と何も変わりません」と装い、「特別区には中核市並みの権限があります」とニア・イズ・ベターを喧伝しているだけであって、制度設計の職員数はそうなっていない。今の制度設計で大阪都構想が実現した暁には、地域自治区事務所は次々に廃止されるか、廃止しなければ特別区本庁で過労死が相次ぐか、どちらも避けようとしたら職員数を増やすしかない。市民生活が不便になるか、職員数を増やして行政運営コストが膨らむかどちらかになるのは必至だ。

自治体の分割コストを隠ぺいする法定協議会

 大阪市廃止後に設置される特別区は税源が乏しい特殊な自治体で、大阪府から税収を融通してもらって成り立つ。では特別区の運営に一体いくらかかるのかは重要なテーマとなるが、法定協議会は基本的なコスト計算をせずに制度設計を仕上げてしまった。

 人口、面積など自治体を構成する要素ごとに、法律に基づいて自治体運営に必要な費用を算出したものを「基準財政需要額」と言う。自治体の税収がこれに足りなければ、足りない分を国が地方交付税として払い補填する。基準財政需要額は国が国民に保障する最低限の生活レベルであり、地方自治体のほとんどは地方交付税の交付団体だ。大阪府と大阪市も地方交付税をもらっている。

 大阪市を廃止して4つの特別区に分割するならば、まず分割後の基準財政需要額を算出し、現在の大阪市と比較するのは当然のことだ。しかし法定協議会では、特別区の基準財政需要額が議論の俎上に上ったことはない。

 基準財政需要額を算出したうえで特別区の運営を議論すべきだと法定協議会で主張してきた野党委員の川嶋広稔・大阪市議(自民)は「(法定協議会の事務局の) 副首都推進局はいくら言っても基準財政需要額を計算しない。大阪市よりも4つの特別区に分かれた方が、コストが増えるとはっきりするからだ」と憤慨する。

基準財政需要額の計算は複雑で自治体財政のプロにしかできないが、副首都推進局が動かないので自民党大阪市議団は計算しやすい人口部分だけを取り出して独自試算した。その結果、4つの特別区になれば基準財政需要額は約200億円増大すると判明した。家計に置き換えれば、一緒に暮らしていた4人家族がバラバラに分かれて生活すれば生活費は高くつくのと同じである。

 川嶋市議は昨年の法定協議会でこの数字を公表したが、維新の委員らは「ちゃぶ台返しの議論だ」などと相手にしなかった。維新が基準財政需要額という数字を避けるのは、大阪都構想が「二重行政の解消」を行政の無駄がなくなるイメージで市民の間に浸透させてきたためだ。4分割で行政運営コストが増大するのは無駄解消のイメージとそぐわない。多くの市町村が合併した「平成の大合併」では、小さな町村が基準財政需要額を計算して合併協議を行ったのに、大阪府、大阪市という大自治体は分割協議において肝心の数字を隠ぺいした。

大阪都構想で基準財政需要額の増大が深刻なのは、増大分が国の地方交付税で補填されないことだ。市町村合併はスケールメリットにより基準財政需要額が減少するので国も地方交付税の支払いが少なくて済む。そのため国は予算を付けて合併を後押しした。こうした国の方針に逆行する大阪都構想に国の援助は一切ない。大阪市を廃止した後にできる特別区は、全国の地方自治体が国に保障されている最低限の生活レベルに満たない「貧乏」な自治体になる。

―次号より筆者を交代いたします。


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