〈第10回〉コロナ禍に「都構想」を住民投票ありきで進めていいのか

大阪市を廃止して特別区に分割する「大阪都構想」は、大阪発の地域政党「大阪維新の会」(以下、維新と言う)の看板政策である。これは法律によって、大阪市民の住民投票で賛成多数にならなくては実現できないと定められており、2015年5月に行われた住民投票では僅差で否決された。

その一方で、維新は首長や議員の選挙戦には強く、住民投票後も大阪府内では勢力を拡大している。維新の政治家らが住民投票結果に従わず、大阪都構想の実現にこだわり続けるのは、住民投票は僅差で敗北したものの、選挙において大阪都構想は維新有利に機能すると分析しているからだと思われる。

新型コロナウイルス禍で出前協議会は動画配信に

大阪都構想の制度設計を協議する「大都市制度(特別区設置)協議会」(通称、法定協議会)は今年2月、11月上旬に2度目の住民投票を実施するスケジュールを決定。まだ新型コロナウイルスの脅威が判然としていない時期だった。

11月上旬の住民投票を見据え、4月には大阪市内4カ所の区民センターで「出前協議会」を開催することも決まっていた。出前協議会とは、法定協議会の委員らによる市民向けの説明会である。その後、3月に入って新型コロナウイルスの感染拡大が看過できなくなり、4月の出前協議会は中止になる。3月下旬には東京オリンピックの1年延期が決まる状況だったので、大阪都構想の出前協議会など中止は当然だ。

ところが法定協議会は4月7日、「出前協議会は5月10日と12日に2回開催」という代替案を発表。大阪市中央公会堂(大阪市北区) を会場とし、密集、密接、密閉の3密を避けるため、1000人収容の会場で参加者は75 人に限定、消毒液を置いたり換気を徹底するという。

国の緊急事態宣言で、国民は自宅にいるよう意識づけされ、多くの集客施設や飲食店が倒産を覚悟しなくてはならない事態に追い込まれているのに、「感染予防対策を取って出前協議会をする」という判断は完全に市民感覚からかけ離れていた。

11月の住民投票にこだわる維新代表

結局、4月下旬には5月の出前協議会も中止になる。参加申し込みは定員割れだった。出前協議会は止めざるを得なかったが、代わりに法定協議会委員の動画メッセージを配信することにしただけで、「11月上旬に住民投票」というスケジュールはそのままだ。

「大阪維新の会」代表の松井一郎・大阪市長は先月末の記者会見で、大阪では新型コロナウイルスの感染がひとまず収まっていることを踏まえ、「今の状況なら住民投票を予定通り実施する」との方針を示した。9月の大阪府市両議会での議決を経て、11月に住民投票という流れになるが、9月時点で感染が収束していたとしても、11月にどうなるかなど分からない。しかし、松井市長は「緊急事態宣言下でも選挙はやっていた」と住民投票実施は可能であることを強調した。

大阪都構想は政令指定都市の大阪市を4つに分割し、特別区という半人前の自治体に格下げする自治体再編だ。大阪市民にメリットはない。しかも、大阪市は自らを廃止、分割するために初期コストだけでも241億円を使う。

新型コロナウイルスによってインバウンド頼みの景気活性化策の危うさや、医療体制と公衆衛生機能の脆弱さも明らかになった。大阪都構想にかかる莫大な経費は、市民の生活を守るため、感染症対策の機能強化に使うのが合理的だ。

大阪都構想に吉村知事人気を利用するのは筋違い

新型コロナウイルス対策を巡っては「大阪維新の会」代表代行の吉村洋文・大阪府知事が頻繁なテレビ出演で全国的に知名度を上げ、「イケメン知事」と人気が急上昇した。ウイルスという見えない敵に人々の心はざわざわし、頼りがいのあるリーダーを求める社会心理が生まれたのだと思う。

11月の2度目の住民投票に向け、「吉村知事に任せておけば大丈夫」と単にイメージで大阪都構想に賛同を呼びかける維新のプロパガンダが行われるのではないかと危惧する。

2015年5月の住民投票では、大阪都構想とは大阪市を廃止するものであることすら市民に理解が徹底せず、「何となく良さそう」「何となく胡散臭い」と勘で判断した有権者も多かった。またもや、「吉村知事が大阪都構想はええと言うてる」といった印象で有権者が大阪都構想の可否を判断するような状況を作り出してはならない。

筆者プロフィール

フリージャーナリスト 幸田 泉

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住。ヤフーニュースや、ブログ「フリージャーナリスト幸田泉の取材日記」で、大阪都構想の法定協議会や大阪市議会での議論など、大阪の公共政策に関し発信中。


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