〈第9回〉賛成率が高いのは住民と地域の関係が希薄な地域

帝塚山学院大学 教授 薬師院やくしいん 仁志ひとし

大阪市住民投票の場合、出口調査や世論調査に照らせば、高齢層の反対率が高かった一方、現役世代では賛成率が相対的に高かった点は事実なのだろう。しかしながら、それは単なる世代差に起因するものではない。住民の世代構成は、各地域の家族形態分布や転出入率などと重なる部分が大きいのだ。

図1が示す通り、住民投票で賛成率が51%を超えたのは、北(59.3%)、西(57.66%)、福島(55.56%)、淀川(55.52%)、中央(54.09%)、都島(53.05%)、浪速(52.67%)、東淀川(51.21%)の8区であった(城東・鶴見・東成も僅かに賛成多数)。これは、全24行政区の三分の一に当たる。

そして、図2が示す通り、これらの8区は、全て65歳以上の住民が少ない上位10区に入っているのである。つまり、現役世代の賛成票の少なからざる部分は、かなり地理的に偏った範囲から投じられたと推察されるのだ。実際、これらの区では、選挙の際にも大阪維新の会の得票率が常に高い。

しかも、図3が示す通り、賛成率上位8区は全て、非高齢単身者の多い上位9区に入っている。北区・西区・浪速区・中央区では、全体の半数を超える世帯が、現役世代の一人暮らしなのだ。大阪維新の会へ支持率が高いのは、こうした地域である。そこにあるのは、単に年齢の問題ではない。むしろ地域性の問題であり、地域と各住民の紐帯の問題なのである。

一般的に、高齢者は現住地での居住年数が長く、将来的にも住み慣れた地域を離れる可能性が低い。当然のことながら、若年層になればなるほど、ましてや単身者であれば、その反対傾向が強まる。事実、図4が示す通り、賛成率上位8区のうち6区までもが、転出率の高い上位7区に入っているのだ。要するに、大阪維新の会の支持率が高いのは、高齢住民の割合が低く、非高齢単身世帯が多く、住民の移り変わりが激しい地域に他ならない。つまり、住民と地域との紐帯が弱く、地元のコミュニティーそのものが希薄な地域なのである。

高齢層にとって、大阪市は地元であり、その将来は我が身に関わる切実な問題にならざるを得ない。逆に、賛成率上位8区に住む現役世代の多くは、大阪市との紐帯が弱い。あくまでも推測だが、出口調査の数字には、平野区や住之江区ではなく、北区や中央区といった市内中心部の傾向が強く反映されているのではないだろうか。そうした地域の若年層において、賛成票が多かったのだ。

だが、連載初回に記した通り、大阪市全体で見れば、現役世代の投票率が大きく上昇した中で、住民投票は否決に終わった。おそらく、平野区や大正区などでは、同じ現役世代でも北区や西区ほど賛成が多くなかったに違いない。問題は、単なる世代差やシルバーデモクラシーではないのである。

―次号から筆者を交代します。


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