〈第3回〉トリックと化した「二重行政の解消」

京都大学大学院 助教 川端 祐一郎

「大阪維新の会」は大阪府と大阪市が同様の行政サービスを行うのは「二重行政」だと主張して、その解消のために大阪市を廃止する「都構想」を打ち出しました。しかし、数々の問題点が明らかとなり、2015年の住民投票では否決されています。「一度きり」とされた住民投票ですが、今年の11月にも再度行われようとしています。本連載では、様々な識者の方に寄稿をいただき、都構想の問題点について考察していきます。

大阪維新の会が「大阪都構想」を提案して以来、その最大の推進理由とされてきたのは、「二重行政の解消」であった。大阪府と大阪市には、広域的な行政事務等において重複部分が存在しているため、これを一元化することによって、財政支出の削減が可能になるというわけである。

2011年、大阪府知事に就任したばかりの松井一郎氏が掲げた目標は、大阪都構想による府市業務の統合から4年後までに、年間4000億円の経費削減を実現することであった。今でも、大阪維新の会が設置している大阪都構想の解説サイトでは「二重行政の解消」が「都構想議論の最大の焦点」であると謳われている。

二重行政解消で支出はほとんど削減されない

2013年に大阪府市の事務局が試算したところ、二重行政の解消による財政支出の削減額は年間736億円から976億円とされた。しかしこの金額には、地下鉄民営化や単なるサービスカットなど、「都構想による二重行政の解消」とは関係のないものが多数含まれていた。その後、都構想の財政効果は何度かにわたり示されてきたが、その内実は概ね似たようなものである。実際に業務が二重化していて削減の可能性がある支出(府市の試算で従来「B項目」と呼ばれてきたもの)は、過去の法定協議会等で示された資料から、多くみても年13億円程度しかない。精査すれば1億円程度になるという指摘すらある。

ところが効果額が公に論じられる場合、往々にして、都構想とは関係なく実施可能であるはずの施策の効果額まで合算した数字が使われてきた。その結果、市民の間では恐らく、二重行政の解消によって「数百億」「数千億」といった規模の効果が生まれるというイメージが定着しているのであろう。2018年にNHKが行った調査では、都構想に賛成する市民のうち64.8%が、賛成の理由は「二重行政の解消につながるから」だと回答している。

「地域の成長」というトリック

表は、大阪市が嘉悦大に委託して2018年に作成した報告書が主張する、大阪都構想の経済効果をまとめたものである。ここでも「二重行政の解消による支出削減効果」と言えるのは(2)のみで、年額にすれば僅か数億円の規模である。

一方(3)は、府と市の間にあった見解の対立がなくなることでインフラ整備の意思決定が迅速化し、そこから様々な経済波及効果が生まれるというものだ。実は、二重行政の解消がほとんど「支出削減」につながらないことが明らかになって以来、都構想推進派は、この(3)のような経済活性化をはじめとする「地域の成長」を指して、「二重行政解消の効果」と呼ぶことが多い。

二重行政というものが仮に存在するとして、その一元化による「支出削減」の効果は、いま現に行われている支出を止めるというだけの話であるから、相応に正確な試算が可能かもしれない。しかし「将来の成長」はあやふやである上に、そもそも大阪都構想との関係が希薄である。経済効果が確実に得られると言うのであれば、一元化しなくても府市の見解は一致しやすいであろうし、逆に不確実性が高いのであれば、一元化したところで議論は長引くはずである。

「二重行政解消による支出の削減」を目指してきたものの、その効果が薄いことが分かったので「二重行政解消による地域の成長」という理屈がトリックのようにして持ち出されたのだ。これが「大阪都構想の経済効果」の真実である。

―次号から筆者を交代します


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