浪速区幸町から、西淀川区福町まで辿る「幸福ツアー」(前)

先人の足跡 No.159 大阪案内人 西俣 稔

2006年8月から13年余り続いた本連載も、次号で最終回となります。160話も続けられたのは、読者の皆様のお陰と、大阪の魅力に尽きると思います。お開きにふさわしく2話、保険医協会のある「幸」町から、西淀川区「福」町まで辿りましょう。題して「幸福ツアー」。単に語呂合わせでなく、7つの川を渡りますが一つひとつの川には、時代を越えた開削や浚渫、堤防の改修などの歴史が脈々と続きます。そこには先人達の多大な尽力があり、現在の私達は「幸福」に過ごせているのです。その先人達へ感謝するツアーです。また7つの川を越えるには7つの橋を渡る必要が、でも渡る橋は6つ。さて一つはどうして渡るのか?謎解きもあります。幸町も福町も江戸時代から継承する地名で、両方とも大阪湾沿いに位置し幾度も台風や大雨、津波で甚大な人的被害や、新田が崩壊するなど、繰り返してきました。故に町が「幸せに」「福が来るように」の願いが込められています。

凹んだ部分が桜川の河口(「保険医協会」すぐ)

 では協会前から出発しましょう。前を流れるのが道頓堀川、大坂市中の拡大と共に堀留であった東横堀川と、木津川を繋ぐために開削されました。平野郷出身の成安道頓が開削を始めましたが、1615年大坂の陣で戦死、八尾久宝寺村の安井道卜が継続して完成させました。現在、道頓堀周辺は外国人や他府県の観光客で賑わっていますが、撮っている写真は、グリコ、カニ、龍、タコばかり。略して「トンボリ、TONBORI」と称し「道頓」の名ですら消え去っています。二人らの尽力でできた土地なのに、顕彰する説明板もほとんど無く、嘆かわしい限りです。

住吉橋から、道頓堀川を望む

 最初に渡る橋が協会前の住吉橋、橋の真ん中から、なんと約6㎞離れた、住吉大社の高さ約15ⅿの高燈籠が見えていたのが由来です。明治中期までは一面田園地帯であった風景が浮かびます。この橋は渡らず戻り千日前通を西へ行くと「桜川」、江戸中期から大正10年頃まで灌漑用の川が流れていました。通り北の歩道辺りが跡地です。大正橋手前にあるのが「安政大津波念碑」、安政元年(1854)津波で5千6百人が犠牲となる大惨事があり、翌年に建立されました。教訓として津波の際に避難する方法と文末に「刻字は雨水で消えていくので、代々墨でなぞるように」との趣旨が刻まれています。現在も毎年有志がなぞっていて、大切なことを継承されておられます。

木津川の大正橋 メトロノーム、ピアノ鍵盤、「第九」の音符が

 二つ目の川が木津川、四天王寺建立の材木の積み降しをした津(港)が由来と伝わります。渡る橋が大正4年(1915)に架設された大正橋。架設前、現大正区は大型船が通れないと言う理由で、橋は一つもなく渡し船で対応していました。当区は明治30年までは西成郡、同年西区に、大正14年港区へと区名が変わり、昭和7年(1932)に大正区となりました。区名は大正橋のお陰で陸続きになり、橋への感謝の気持ちから名付けられました。橋の老朽化で昭和49年に現在の橋に架け替えられ、橋の欄干にはベートーヴェン「第九」の音符が、歩道はピアノの鍵盤、車止めはメトロノームが施され、橋の完成の喜びを伝えています。

 三つ目は岩崎運河、「京セラドーム」がある所です。大型船を通すために、尻無川と木津川、境川運河を繋ぐ目的で大正9年(1920)開削されました。渡る橋が岩松橋、旧町名の「岩崎」と「松島」を併せた橋名です。

 しばし川から離れ北上すると、阪神・地下鉄九条駅前、九条東小学校の塀に、室戸台風「暴風水害記念誌」が埋め込まれ、児童を教員が覆い守っている姿が描かれています。昭和9年9月21日早朝、台風による惨禍で多くの児童教職員も犠牲になりました。現在も全国で相次ぐ、台風や地震による被害が絶えず、今日的課題です。

室戸台風受難碑

 学校前が「キララ商店街」。かつては九条新道と呼ばれ、東へ辿ると一本でJR玉造駅に就き、西へ辿るとこちらも一本で此花区桜島へ就きます。大阪城公園にあったアジア最大の軍需工場、「大阪砲兵工廠」で造った兵器を、桜島の軍港まで運ぶために、昭和初期から強制的に家、寺などを立退かせ通した軍用道路跡です。その痕跡がいくつか残ります。谷町7丁目の道路の真ん中に楠木があるのは、本照寺を立退かしましたが、住民らが神木を守り抜いたのです。東横堀川の東掘橋は、当川で唯一江戸時代からの橋ではなく、軍用道路に架けられた橋。心斎橋のアメリカ村の通称「三角公園」は、軍用道路を通す際に、ここからに西へ流れる堀江川に道路が突き当たり、北岸へ斜行させ「三角」地帯が生れました。アメリカと戦うための道路跡に、若者で賑わう「アメ村」が、皮肉と言いましょうか、平和ですね。もう一つの痕跡が安治川にあります。次回ご案内します。


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