<第四回>ちりとり鍋
- 2020/4/15
- うま安、大阪名物
ミシュランにも載っていない!? うま安、大阪名物 江 弘毅<第四回>
「ちりとり鍋」というユニークなメニュー名で呼ばれる大阪の焼肉・ホルモン料理がある。
焼肉・ホルモンといえば大阪・鶴橋であり、誰もが思い浮かべるのは、炭火やガスコンロの上に焼き網をのせて肉を焼き、漬けダレで食べるスタイル。
が、この「ちりとり鍋」は、鉄板の四角を縁で盛り上げ、四角いフライパンのような形の鍋で、肉やホルモンを甘辛いタレにからめながら焼いて食べる料理だ。肉を焼く鉄板のいいところと、タレをじんわりからめられる鍋の良いところをアレンジした、実によく出来た調理器具である。
「ちりとり」というショッキングな名前は、この料理発祥の生野の専門店「万才橋」の創始者の三男の中山由夫さんが、約20年前にミナミに「まつりや」として出店して大好評。地元誌のライターが「ちりとり鍋」という名前で記事を書いたことで広く認知された。今や大阪ミナミを中心に専門店や韓国系居酒屋のメニューとして出す店も多く、このスタイルの鉄板は千日前の道具屋筋のプロ向け調理道具店でも扱われるようになっている。
中山さんによるとオリジナルは、50年ほど前に「万才橋」をやっていたお父さんが、近所の町工場の溶接工に特別に頼んで作ってもらったとのこと。鶴橋やコリアンタウンを持つ生野は焼肉の本場であるが、その激戦区にあって、まったく違う焼肉・ホルモン料理として半世紀親しまれてきた。
オーソドックスな食べ方は、まずキモ焼きから始まる。タレと食べやすく切った鮮やかな赤のレバーが並べられて、その上にゴマをたっぷり。あくまでも弱火で、焦げないように注意して、1枚ずつひっくり返して表面がちょっと焼けたタイミングでパクリ。これはごちそうレバー料理。
それを食べてから一旦鉄板が引かれて、メインの赤身とホルモン、ネギと玉ネギ、ドサリと盛られて出てくる。タレは下に敷かれる感じで、からめて焼きながら食べる。火が噴き煙モウモウの網焼きの焼肉でなく、あくまでも弱火で肉やホルモンの脂やうま味がじんわりタレに溶け出すのが実にうまい。ビールがススムぜコノヤローである。
締めはうどんかご飯。食べ終わって残ったタレにからめて生卵を投入。すべてのうま味を全部吸い取った超絶の味。キムチも合う。
この「まつりや」のちりとり鍋、キモ焼き680円、上ミノ・バラ・ハラミの「まつり盛」は醤油ベースで780円、テッチャン・赤セン・センマイの「ヘルシー盛」は味噌ベースで580円。ロースやタンの追加肉もある。二〜三人で行って大いに楽しめる。
大阪・生野の昭和が生んだ偉大な発明のひとつがこの料理だといえる。