<第三回>本場のうどん
- 2020/3/15
- うま安、大阪名物
ミシュランにも載っていない!? うま安、大阪名物 江 弘毅<第三回>
テレビのバラエティ番組や街のグルメ情報誌が、うどんをたこ焼きやお好み焼きと同じように「コナもん」と呼ぶようになったのはいつ頃からだろうか。多分平成に入ってからのことで、ここ20年ぐらいかなあ、などとふり返る。なんだか大阪のうまいもんの代表格である「うどん」が変わった時期と関連しているようだ。ミナミやキタの街場にコンビニが目立つようになった頃ともリンクしているような気もする。
大阪の街場では、駅前の立ち喰いうどんとチェーン展開しているセルフサービスのうどん店が幅を利かせるようになった。とくに後者は感覚的には「讃岐うどん」「釜あげ・ぶっかけ系」であり、当初はロードサイドか大型ショッピングモールのフードコートでよく見るテナント、という感じだったが、ミナミや船場でも、昼時にサラリーマンたちが並んでいるのを見かけるようになった。
大阪のうどんは、明治26年創業の「元祖きつねうどん」の「うさみ亭マツバヤ」(南船場) はじめ、道頓堀の「今井」、北新地の「黒門さかえ」など、メディアで広く知られる老舗が多いが、どこの繁華街どこの商店街にも、うまいうどん屋がある。というか、立ち喰いうどんにしても讃岐系にしても、不味ければ店が潰れてしまうのが大阪だ。
さて激変した大阪の街場のうどん、1月に逝去された坪内祐三さんが、『ぴあ関西版』で’02年から5年間連載していた「まぼろしの大阪」で、見事に書ききっている。
本当にないのが、純大阪風のうどん、特にきつねうどんである。 (略) つきなみであるが、まず、そのダシ。薄味でほんのりと甘い。このほんのりが、ぼんやりでなく、密かにかちっとしている。 それはメンにも共通している。ゆるめではあるが、そのゆるさは、コシがないのとは違う。もちろん、延びてしまったわけでもない。独特のゆるさである。 つまり、大阪風のきつねうどんは、ダシもメンも絶妙にレイド・バックしていて、その味がたまらないのである。この味は誰もまねることが出来ない。
雑誌『東京人』の編集者だった坪内さんは生まれ育った「東京」を中心に「都市論」を書きまくっていたが、大阪についてもさすがにするどい。
わたしの仕事場は’06年から’17年まで四つ橋筋の堂島あたりにあったが、すでに坪内さんの言う大阪のきつねうどんを出す店はなかった。その後、御堂筋の堂島へ移ったのであるが、本来の大阪うどんの店を老松町に即座に見つけた。その名も「うどん老松」。
外観や暖簾からして「これは正味のうどんや」とわたしのDNAが判断した。速攻で入ると、初老のご夫婦だけでやっている店で、味も坪内さんの言う通り。きつねうどんが450円、肉うどんは500円という安さも何というか「昔の大阪的」である。
以来だいたい週2回は通っていて、ここの「うどん屋の仕事」がわかるようになったが、鯖、ウルメ、メジカ、昆布のだしを毎朝丁寧にひいていて、天ぷらもその都度揚げている。それが「あたり前や」とばかりに。この数年のお気に入りは、紅ショウガ天うどん。と書いたら、また食べたくなった。