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不安だらけの「共通番号制度」
- 2015/10/25
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医療機関
マイナンバー制度への対応を考える③
不安だらけの「共通番号制度」
税理士 林 明
「医療機関におけるマイナンバー制度への対応を考える」第3回は、制度で危惧されることなどを中心に林明税理士にご寄稿いただきました。
詐欺師も狙うマイナンバー
この原稿が紙面に掲載される頃には、すでに会員の皆さん方のところに来年1月からスタートする「共通番号(マイナンバー)制度」の「通知カード」が届いているものと思います。また個人番号カードの申請用紙が同封されて送られてきているものと思います。
「通知カード」は個人番号を通知するためのものですが、「個人番号カード」はICチップのついたカードで、表面には、住所、生年月日、性別と顔写真、裏面には個人番号が記載されています。個人番号カードは単に番号を明示するためだけではなく、自治体が条例で定めるサービス(図書館カード、印鑑登録等)に利用できるなど身分証明書として利用できることになっています。
ただし、そうした便利さと同時に個人の情報が蓄積したカードですから紛失等した場合のリスクが様々予想されます。このカードを取得したくなければ申請をする必要はありません。マスコミ報道ではリスクについての報道が少なく便利さを強調しますが、慎重に検討してください。なお、「マイナンバー」の通知に関連して、独立行政法人国民生活センターには「口座番号を教えてほしい」「個人情報を調査する」などといった不審な電話等に関する相談が多く寄せられています。
この点、個人番号の利用範囲は当面、災害対策以外では税と社会保障についての行政への手続きに限られています。民間企業との関係では給与や原稿料等の支払先以外の民間企業から個人番号を問い合わせられることはないはずです。個人番号の問い合わせがあった時には、相手が誰なのかよく注意してください。
情報漏洩による訴訟のリスクも
個人番号の記載欄がある書類を作成するのは来年からです。
税務でいえば、2016(平成28)年1月1日以降に作成する源泉徴収票、支払調書は個人番号の記載欄があるものになります。所得税の確定申告の場合、通常の申告書については、2017(平成29)年に提出する申告書が個人番号の記載欄のあるものになります。
行政の想定する進行でいけば、まず診療所は従業員さんから個人番号を確認の上、個人番号の提供を受け、個人番号を記載した書類または電子ファイルを作成することになります。
この個人番号を記載した書類ないし電子ファイルは特定個人情報となり、厳重に保護する義務を負うことになることは前回までに説明されたとおりです。またその厳重な保護義務を徹底するため、情報漏えいした場合は刑事責任が問われる可能性があります。
「日経コンピュータ」2015年1月16日号によると、「特定個人情報は早い時期に売りに出せば高値が付く。企業がマイナンバーを集めたものの守りの体制が整わない2016年春に、サイバー攻撃や内部犯行が続出する可能性が高い」そうですが、「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下、番号法)」では情報漏えいについて最高4年以下の懲役または200万円以下の罰金または併科となっています。これはちょうど個人情報保護法の2倍の刑となっています。また執行猶予が付くのは、刑法25条によると3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の場合ですので、この4年というのは執行猶予のない刑ということになります。刑事責任を問う場面が頻発するとは考えにくいものの、「番号法」の構えはきびしいと言わざるを得ません。また情報漏えいによって従業員さんが何らかの経済的なトラブルに巻き込まれたりすれば、従業員さんから診療所に対して損害賠償を求められることも考えられます。なお、個人番号の収集・管理を税理士や社労士などに外部委託した場合でも、委託元には委託先への監督責任があるため事業主は一定責任を負うことになるので注意が必要です。
事業所としての義務の範囲とは
このような重い責任を事業主に強いる「番号法」ですが、一方、第六条では「事業者の努力」として「第六条 個人番号及び法人番号を利用する事業者は、基本理念にのっとり、国及び地方公共団体が個人番号及び法人番号の利用に関し実施する施策に協力するよう努めるものとする」としています。あくまで事業者が番号法から求められているのは努力義務です。各分野での個人番号の記載について関係機関のFAQをまとめると左の表1のようになります。
[表1] 各分野での個人番号の記載について関係機関のFAQ
雇用保険業務等における
社会保障・税番号制度への対応に係るQ&A(厚労省)〔問〕従業員から個人番号の提供を拒否された場合、雇用保険手続についてどのような取扱いとなるのか(Q11)。
〔答〕雇用保険手続の届出にあたって個人番号を記載することは、事業主においては法令で定められた(努力)義務であることをご理解いただいた上で、従業員から個人番号の提供を求めることとなりますが、仮に提供を拒否された場合には、個人番号欄を空白の状態で雇用保険手続の届出をしていただくこととなります。
※個人番号の記載がないことをもって、ハローワークが雇用保険手続の届出を受理しないということはありません。
国税分野におけるFAQ(国税庁)
〔問〕従業員や講演料等の支払先等から個人番号の提供を受けられない場合、どのように対応すればいいですか(Q2−10)。
〔答〕法定調書作成などに際し、個人番号の提供を受けられない場合でも、安易に個人番号を記載しないで書類を提出せず、個人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
経過等の記録がなければ、個人番号の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。
なお、法定調書などの記載対象となっている方全てが個人番号をお持ちとは限らず、そのような場合は個人番号を記載することはできませんので、個人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません。
表1の記載ように、個人番号がない場合においても行政としては受付をし、受理します。その事情として、左記の問答集から2つ挙げることができます。
一つは、従業員さんが個人番号の提供を拒否した場合には、診療所に強制的に個人番号を提供させる権限はありませんので、個人番号を記載することができないことです。
もう一つの事情は、災害や様々の理由で住民票記載の住所に居住してない人が一定数おり、「通知カード」が届かない人がいることが予想されています。「通知カード」が届かない人は個人番号を書くことはできません。2009年の1万2千円の定額給付金の例では、少なくとも24万7千通が、あて所尋ね当たらずとして戻ってきたそうです。このような事情を考慮したときに、個人番号の記載を絶対条件にはできないということでしょう。
さらに、行政側の事情として、個人番号の記載がない場合に「地方公共団体情報システム機構」(「J―LIS」)という機関へ照会すれば個人番号の収集ができるということも背景にあると思われます。このような行政の対応、診療所の個人番号の保護への責任の重さ、安全な管理体制の整備等々を、よくよく慎重に検討する必要があると思います。
なお、内閣官房が提供する「マイナンバー制度」のホームページには、「よくある質問FAQ」として、右表2の回答があります。ご参照ください。
[表2] よくある質問FAQ(内閣官房)
〔問〕従業員などのマイナンバーは、いつまでに取得する必要がありますか(Q4−2−1)。
〔答〕従業員にマイナンバーが通知されて以降マイナンバーの取得は可能ですが、マイナンバーを記載した法定調書などを行政機関などに提出する時までに取得すればよく、必ずしも平成28年1月のマイナンバーの利用開始に合わせて取得する必要はありません。例えば、給与所得の源泉徴収票であれば、平成28年1月の給与支払いから適用され、中途退職者を除き、平成29年1月末までに提出する源泉徴収票からマイナンバーを記載する必要があります。
(2015年4月回答)