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- 〈第2回〉「区割り」に表れる大阪都構想の本質的な矛盾
〈第2回〉「区割り」に表れる大阪都構想の本質的な矛盾
- 2020/3/5
- 「都構想」!?どこがウソ!?市解体の実態を探る
京都大学大学院 助教 川端 祐一郎
「大阪維新の会」は大阪府と大阪市が同様の行政サービスを行うのは「二重行政」だと主張して、その解消のために大阪市を廃止する「大阪都構想」を打ち出しました。しかし、都構想の中身を精査するなかで数々の問題が明らかとなり、2015年の住民投票で否決されました。「一度きり」とされた住民投票ですが、今年の11月にも再度行われようとしています。本連載では、様々な識者の方に寄稿をいただき、都構想のいったい何が問題なのか考察していきます。
大阪都構想で「ニア・イズ・ベター」が実現するのか?
昨年12月26日に開かれた、大阪府市の第31回「大都市制度(特別区設置)協議会」(法定協)では、「大阪都構想」の最新の区割り案(図)が示された。既存の24の行政区が、新設される北区・淀川区・中央区・天王寺区という4つの特別区にまとめられる形となっている。
この区割り案については様々な観点から批判があると思われるが、案そのものの良し悪しよりも重要なのは、この区割りという問題の中に、大阪都構想が抱える原理的な矛盾が潜んでいるということである。
大阪維新の会は都構想を推進する理由の一つとして、「ニア・イズ・ベター」(近いことは良いことだ)の理念を挙げてきた。これは、270 万人もの人口を抱える大阪市では、市役所が住民のニーズを細やかに汲み取ることは難しいが、人口数十万人程度の特別区に分割すれば役所と住民の距離が身近になり、それが可能になるという意味合いである。現在も大阪市は24の行政区に分かれているのであるが、区長は公選されていないので、個別的なニーズが十分に反映されないのだと推進派は言う。
たしかに、大阪市のような巨大都市はきわめて多様な住民や企業を包摂しているので、一律的な行政を行ったのでは、個別的なニーズを取りこぼしてしまう可能性はあるだろう。だが、市を分割すれば取りこぼしが減るというのは本当なのだろうか?
区割りに必要な二つの条件
この問題を考える上で参考になるのは、南山大学の森徹教授らの分析だ。森教授らは、政令指定都市を複数の中規模自治体(区)に分割するという改革が、原理的なジレンマに直面せざるをえないということを実証的に示しているのである。
森教授らは、分割がポジティブな効果を生むためには、少なくとも二つの条件が満たされる必要があるという。
一つは、「似たようなニーズを持つ住民」が同じ区内に集まるように区割りが設定されなければならないということである。なぜなら、各区内に「ニーズの多様性」が残ってしまうのであれば、そのすべてを汲み取ることが難しいという問題は解決しないからだ。
そしてもう一つの条件は、分割後のすべての区が、財政的に自立できるだけの経済力を持つ必要があるということである。区の間で経済格差が大きい場合、財政調整が必要になり、これでは一部の区が他区もしくは府などに従属する関係に置かれることになってしまう。
大阪都構想の本質的なジレンマ
森教授らは、大阪市・横浜市・名古屋市について様々な分割パターンを比較するシミュレーションを行い、これら二つの条件を同時に満たすような分割は困難であると結論づけている。
実際、今回示された大阪都構想の区割り案をみると、たとえば現中央区のような繁華街・ビジネス街と、現西成区のような下町エリアが同居する計画となっている。これは、新たにできる特別区間の財政力格差を小さくするという配慮の結果であろうが、それと引き換えに、区内の多様性は許容せざるを得ないわけである。
これでは「ニア・イズ・ベター」にはならない。かといって、ニーズの同質性を重視した場合は、たとえばキタ(北区)とミナミ(中央区)を統合するような案になり、他区との間に極端な財政力格差が生じてしまう。こうした単純なジレンマを直視するだけでも、大阪都構想が「住民自治」の理想を実現する夢のような改革でないことは、明らかなのである。