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- 「都構想」!?どこがウソ!?市解体の実態を探る
- 〈第1回〉「大阪都構想の経済効果」への重大な疑問
〈第1回〉「大阪都構想の経済効果」への重大な疑問
- 2020/2/25
- 「都構想」!?どこがウソ!?市解体の実態を探る
「大阪維新の会」は大阪府と大阪市が同様の行政サービスを行うのは「二重行政」だと主張して、その解消のために大阪市を廃止する「大阪都構想」を打ち出しました。しかし、都構想の中身を精査するなかで数々の問題が明らかとなり、2015年の住民投票で否決されました。「一度きり」とされた住民投票ですが、今年の11月にも再度行われようとしています。本連載では、様々な識者の方に寄稿をいただき、都構想のいったい何が問題なのか考察していきます。
大阪市の委託事業により嘉悦大学が作成し、2018年6月に公表された「大都市制度(総合区設置及び特別区設置)の経済効果に関する調査検討業務委託報告書」は、大阪都構想が実現した場合に生まれる経済効果を算出している。吉村洋文・現大阪府知事は「実現性のある数字だ」「専門家によるフェアで恣意性を排除した一般的な計算方法」と述べるが、その算出プロセスの妥当性や結果の解釈には大きな疑問符が付く。
報告書で算出されている経済効果はいくつかの種類のものに分かれるが、中でも最も注目を集めたのは、人口270万人を抱える大阪市を、人口数十万人の中規模自治体に分割することで財政が効率化し、10年間で約1・1兆円の支出削減が可能になるというものである。なぜ分割するだけで財政が効率化するのか疑問に思う人が多いであろうが、報告書の主張する理屈は以下のとおりである。
図は、横軸に人口規模、縦軸に住民1人あたりの歳出規模をとって、全国の市町村をプロットしたものだ(データは2016年度、公債費・扶助費を除く)。大まかに「U字型」の分布になっていることが見て取れるが、これはすなわち、小規模な町村が大規模化するにつれて1人あたり歳出が減少するものの、ある規模を超えた大規模自治体では逆に増加に転じることを意味している。1人あたり歳出が最小となるのは、人口が50 万人前後のときである。
大阪都構想は、政令指定都市である大阪市を廃止していくつかの特別区に分割するというものだが、最新の案では特別区は4つとされ、各特別区の人口は53万人から70万人となる見込みである。これは、現在の大阪市の270万人に比べれば「50万人」に近い値であるため、大幅な歳出削減が実現するというわけである。
市を廃止しても変わらない出費
しかし、この解釈は極めて不自然だ。報告書は、政令指定都市クラスの大規模自治体において1人あたり歳出が増加に転ずることを、「非効率性」の結果であると捉えているのだが、本当にそうなのだろうか。
政令指定都市において1 人あたり行政経費が大きくなる背景には、行政上の権限が一般の市に比べて幅広く都道府県業務の一部を担っていること、動物園や美術館をはじめとする中小都市にはない行政サービスを提供していること、活発な経済活動を支えるため道路や鉄道などインフラへの大きな投資が必要となること、地価や物価の高さにあわせて公務員給与が割増されること、といった事情がある。
つまり「大都会ならではの出費」が必要であり、市民はそれに見合った「大都会ならではのサービス」を受けているのだ。
大阪市を分割しても、現在の大阪市域が「都会でなくなる」わけではないのだから、必要な出費が減るとは考えにくい。仮に削減できるとすればそれは、大阪府への単なる業務移管の結果であるか、もしくはサービスを縮小した場合であろう。
著者プロフィール
京都大学大学院 助教 川端 祐一郎
大阪府立豊中高校、筑波大学第一学群社会学類(政治学専攻)卒業、京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。隔月刊オピニオン誌『表現者クライテリオン』編集委員。メールマガジンも連載。大阪都構想に関連して、2019年12月に論文『自治体の「適正規模」論の系譜と自治体「分割」への適用の妥当性に関する研究』(実践政策学、5巻2号)を執筆。