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最終回 全体をまとめるバランス感覚
- 2020/8/15
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西内洋行のトライアスロンのススメ
最終回 全体をまとめるバランス感覚
私がトライアスロンを1994年にやり始めてから、2000年シドニー、2004年アテネオリンピックに出場。それ以降は我流で競技をやっていきましたが、もっと世界を目指すためにはこのままでは駄目だと思い、大会で知り合った海外選手と交流を深めて情報を交換。世界のトップ選手が参加している合宿に混ぜてもらうことになりました。その1つの合宿が、フィリピンで行われたteamTBBというチームの合宿です。
世界の強豪が参加していたその合宿は3週間行われましたが、今まで経験したことのない練習ばかりで、驚きの連続でした。
その1つの練習でもっともきつかったのが、「モンスターラン」という練習。朝スイムを4kmほど泳ぎ終わり、午後のメニューがコーチから言い渡されます。「バイクを各自で90分乗って、そのままラン練習で、800mインターバル練習『モンスターラン』というものをやるから陸上競技場へ来い」とのこと。
スイム、バイクを結構な距離をやってからのランだから、モンスターランと言っても800mを15本ほどのインターバル練習かなと思っていました。ところが、言い渡された本数は42本。レストは200mのイージーランを挟みますので、つまり総距離42㎞のフルマラソンです。
周りの選手はその練習には慣れているので、誰一人として文句を言いません。さすが世界を目指している選手は違います。コーチのタイム指示に従って、淡々と本数をこなしていきます。私も気が遠くなりながらも42本を完走。終わった時間が、200mのレストを含めて2時間46分でしたから、単純にフルマラソンをそのペースで走っていると言えます。その日は疲れ切ってしまい、身体が火照って寝られませんでした。
もちろん、こんなメニューを毎日はしませんでしたが、強弱をつけられたトレーニングメニューで「これがトップ選手のメニューか!」と衝撃を受けました。その後、たまたまアジア人を探していたそうで、この合宿がきっかけで幸運にもチームにプロ選手として契約、加入することになりました。
合宿では他の選手と過ごす時間が多くなり、練習以外の私生活を垣間見ることがあるのですが、食生活が整っておらず、シリアルを主食にしている粗食の選手がいたり、自主練習の日は午後まで寝て、不規則な生活をしている選手がいたりと意外でした。
「最先端の理論とは無縁では?」と言える練習メニューもチームにはありましたので「やるときはやる」「理論に頼りすぎるな」というコーチの哲学がチーム全体にあったのかもしれません。それでも、大会ではきっちり結果を出してくる選手は、全体をうまくまとめてくるバランス感覚が優れていたのだと思います。
トライアスロンは、3つの種目、スイム、バイク、ランを行います。スイムが不得意でも、無理をせずにバイク、ランで追い上げればいいのです。それをスイムで無理しすぎてしまうと、得意のバイク、ランで力を出すことができません。一見、合宿で見たような自己管理ができていない選手でも、いざやるという時にやれる精神と体調のバランスが取れた状態でいられるようにしていたのかもしれません。
第1回目で述べた「柔能く剛を制す」ですが、カチカチに考えすぎないで、柔軟に考え行動し、バランスを取っていくということが、トライアスロンでは活きてくるのではと思います。
きついイメージが強いトライアスロンですが、皆さんもぜひチャレンジしてみては如何でしょうか?奥の深さを楽しんでいただければと思います。