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第2回 国際大会の舞台裏
- 2020/7/15
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西内洋行のトライアスロンのススメ
第2回 国際大会の舞台裏
あるフランス人選手が、レース後私のところに、「お前、何で押してきた?」といきなり喧嘩腰で詰め寄ってきました。
トライアスロンのオリンピックを目指していた私は、当時距離の短いオリンピックディスタンス(総合51.5㎞)のワールドカップに出場していました。
スイムスタートでは、ランキング順に好きな場所を前日に選んでいき、当日はその番号の場所に入ってスタートをしていきます。ランキング上位の選手は、位置や流れ的に有利な場所を取ることができ、ランキング下位選手は、自ずとポジションが悪くなってしまいます。
そのフランス人選手は、前日に決められた場所があるはずなのですが、場所を忘れてしまったのか、より良い場所を取ろうとしてか、私の隣に割り込んできました。混雑したスタートは、「バトル」といって、ごちゃごちゃになって泳がざるを得なくなってしまい、泳ぎにくくなるばかりか、呼吸ができずに事故につながることもあります。
トライアスロンではスイムスタートが重要で、スタートで順位が決まると言っても過言ではありません。先ほどのフランス人選手が割り込むことを阻止するために、私は彼を押し返しました。それが気に障ったのでしょう。終わってから私を探して文句を言いにきたようです。
もちろん、私は悪くはないので、反論してルールを確認したり、その選手のスタート位置を聞いたりしました。そのうち、彼に非があるのを自覚してか、「次は押さないでくれ」と言って立ち去っていきました。
日本人は、トライアスロンのレースで下に見られがちです。差別とまではいきませんが、欧米人の選手同士の輪の中に入れてもらいづらいのを肌で感じています。それは向こうがそうしているのか、日本人がそうしているのか難しいところですが、どちらとも言えるのではないかと思います。
日本人の英語レベルが低いというのもあったり、実際はレベルが高い選手でも、英語を話さない日本人というイメージが定着していて、欧米人が積極的に接してこなかったりというのもあると思います。そうなると、日本人同士で選手も固まってしまい、余計に欧米人が話しかけづらい状態にしているとも言えるでしょう。
トライアスロンは個人スポーツですが、国際大会では周りの選手とコミュニケーションが取れると、かなり競技しやすくなっていきます。一緒に集団から逃げたり、逆に一緒に追ったり。顔見知りになっていると、良いポジションに入りやすくもなります。そうでないと、バイクでお尻をつねられたり、水をかけられたり、罵声を浴びせられたりすることもあります。
私は、よくフィニッシュ後に、周りの選手と握手をします。走りきった後で、身体はかなりきついのですが、コミュニケーションを取るために、うろちょろします。スタート前も、両隣の選手と握手をします。そうすることにより、レースがしやすくなるのです。
冒頭のフランス人選手は、きっと日本人だから、割り込みやすいと思って入ってきたのかもしれません。フィニッシュ後、彼が言い寄ってきたのは、英語を話せないと思って、憂さ晴らしでやったのかもしれません。
日本人がよりグローバル化していくには、英語力があったほうがもちろん良いのですが、無くても無いなりにコミュニケーション能力を磨いていく、また、積極的に話しかけていく努力が大事ということを、トライアスロンを通して知ることができたのは貴重です。
にしうち ひろゆき
プロトライアスリート・NSIトライアスロンスクール代表。teamNSI所属。2000年シドニー、2004年アテネオリンピックに出場。現在は「アイアンマン」を中心に世界を転戦している。