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- 〈第11回〉「都構想」の法定協は法治国家のルール無用の出来レース
〈第11回〉「都構想」の法定協は法治国家のルール無用の出来レース
- 2020/6/15
- 「都構想」!?どこがウソ!?市解体の実態を探る
フリージャーナリスト 幸田 泉
大阪都構想は最初、大阪市を五つの特別区に分割する案だった。これが2015年5月に行われた大阪市民の住民投票で否決されたので、今度は四つに分割することになった。
このように大阪市を幾つに分割するのかなど大阪都構想の設計図である「特別区設置協定書」は、「大都市制度(特別区設置)協議会」で協議して作成することとなっている。法律で設置が義務付けられているので、通称、法定協議会と呼ばれるが、この法定協議会は「大阪維新の会」(以下、維新と言う)の委員によって恣意的に運営される「大阪市の廃止、分割ありき」のまさしく出来レースだった。
「都構想」の本質的な議論ができない協議会
法定協議会は大阪府知事、大阪市長と大阪府市両議会の各会派の議員ら計20人で構成される。議決権があるのは会長以外の委員19人なので、最低でも10人の委員の足並みがそろわなくては特別区設置協定書を仕上げることはできない。
2014年夏、維新代表だった橋下徹・大阪市長(当時)は、大阪市の廃止、分割に異を唱える自民、民主、共産、公明党会派の委員を法定協議会から追い出し、維新の委員に入れ替えて、大阪市を5分割する特別区設置協定書案を可決した。橋下市長は「協議会は大阪都構想の設計図を作る場で都構想反対を訴える場ではない」と野党委員の排除理由を説明した。
「反対意見を言うな」という方針は、2017年6月に設置された第2ラウンドの法定協議会でも変わっていない。協議会規約で協議会の事務は「大阪市の区域における特別区設置協定書を作成すること」とあるのを盾に、野党委員らが大阪都構想の問題点、矛盾点を指摘しても、維新委員が「反対意見を述べるのは協議会規約に反する」と封じ込める。
大阪都構想の法定協議会のモデルは、「平成の大合併」の際に各地で設置された合併協議会だ。合併協議会では関係市町村が話し合った結果、「合併しない」という結論に至ったケースもあった。しかし、大阪都構想の法定協議会においては「大阪市の廃止、分割はしない」という選択肢が存在しないのだ。
法治国家の法定協議会が「法の上に人を置く」
この法定協議会の奇妙なルールは、昨年2~3月、大阪市議会で共産党会派の瀬戸一正市議(当時)が取り上げた。複数の地方自治体が協力して業務を進める手段として地方自治法で「協議会」の設置が認められており、合併協議会も大阪都構想の法定協議会もこの規定により設置されている。市町村合併の手続きは「市町村の合併の特例に関する法律」(市町合併特例法)により、大阪都構想は「大都市地域における特別区の設置に関する法律」によって進められるが、協議会設置の根拠はどちらも地方自治法だ。
瀬戸市議は市町村合併特例法の逐条解説に「合併協議会の設置イコール合併を行うこととはならない。合併協議会とは合併を行うこと自体の是非も含めて協議する組織である」と記載されていると説明。「大阪都構想の法定協議会も大阪市を廃止するか存続させるかという根本から話し合う役割を負っている。法律に従わない法定協議会の進め方は、法律よりも個人を上に置くもので、こんなことがまかり通れば法治国家ではない」と指摘した。
これに対し吉村洋文市長(現・大阪府知事)は「瀬戸議員は(大阪市を廃止する) 特別区設置に大反対だから、特別区設置協定書をまとめなくてもいいというのは政治的主張だ」と話をすり替えて突っぱねただけだった。
新型コロナの被害を前にしても都構想が大事?
橋下・元大阪市長ら維新の政治家は「大阪都構想をバージョンアップして再挑戦する」と宣言して、2015年5月の住民投票結果を覆した。復活版の法定協議会は2017年6月に設置され、今年6月11日までに計34回開催されたが、前述した事情で大阪都構想について議論が尽くされたわけでは決してない。何をしていたのかと言えば、維新委員らが主導して、今度こそ住民投票で賛成多数にさせようと制度設計の表層をいじり回したに過ぎない。
昨年4月の統一地方選挙で維新は議席を増やし、法定協議会で委員の過半数を握ったため、野党委員の顔色をうかがう必要はなくなった。おそらく6月19日の第35回法定協議会で大阪市を四つの特別区に分割する特別区設置協定書が可決される。法定協議会は最後まで正常に機能することなく、新型コロナウイルス禍で被害甚大な大阪市民に対し、「大阪市の廃止、分割」という不要不急な課題の判断を迫るのだ。