〈第5回〉〝トコーソー〟特別区4区割で「ニアイズベター」?

フリージャーナリスト 吉富 有治

私が言うトコーソー、すなわち大阪都構想の最大のキモは特別区の設置である。これまでにも大阪維新の会は盛んにこの点を宣伝してきた。

現在の大阪24区を4つの特別区に再編し、それぞれの区に公選区長と公選区議を置く。約270万人の市民がいる大阪市を分割し、約60万人から70万人規模の特別区を作れば、区長と住民との距離はより近くなり、役所は「民意をくみ取りやすくなる」と維新の会は主張する。

住民に近い基礎自治体。維新はこれを「ニアイズベター」と呼ぶ。具体的には、家の前の道路が陥没しているので修理してほしい、市民が憩う公民館を建ててほしいといった要望を役所に届け、役所も住民の声を広く聞き、それらの声を具現化する。これがニアイズベターの意味である。

なるほど、大阪市を4つの特別区に分割すれば4人の公選区長が住民の声を聞くことができ、レスポンスも早そうだ。数字の比較で言うならば市長1人対270万人より、特別区長4人対270万人の方が行政トップの動きとしては効率的で住民との距離は縮まるように見える。しかし、これは数字のマジックでしかない。

「地球と冥王星の距離は約48億km。対して土星までは約7.5億km。土星のほうが近いので行きやすい」と言っているようなもので、冥王星も土星も地球からの距離は共に遠く、どちらも人類が遠征するのは困難だ。

理屈はこれと同じで、270万人より少ないとはいえ約60 万人から70 万人の人口規模で首長と住民との距離が近くなるとは考えにくい。そもそも現実の話として、政令市だろうが特別区だろうが行政トップ1人で市民1人ひとりの声を直接聞くことなど、まずないだろう。

住民の声聞けるのは市会議員ではないか

以前、大阪府内にある中核市の市長をインタビューしたとき、このニアイズベターの話を聞いたことがある。その市長は「私の感覚では住民との距離が近い関係は20万人くらいが適正だと思う。50万人では難しいと思う」と首を傾げていた。

政令市でも中核市でも、また特別区でもトップが住民1人ひとりの声に耳を傾けるには限界があるし不可能だ。文字通りのニアイズベターが実現できるのは、せいぜい人口が数千人か数百人ほどの村だろう。町民1万人ほどの町でさえ町長が住人全員の声を聞くことは難しい。

ただし、人口が100万人を超す政令市でも住民と行政との溝を埋めることは可能だ。その役目を果たすのは議員だろうというのが私の考えである。

大阪市の場合は現在83人の市会議員が選挙区内で活動している。彼らは地域活動として住民の声に耳を傾け、その声を行政に反映する政治的な責任を担っている。

私も経験があるが、住民の声が議員によって行政担当者のもとに届けられたり、議会で条例が可決されて制度化されたなど、私たちの要望が実現した事例は数多い。このように考えれば、ニアイズベターの真の担い手は市長や特別区長よりも、むしろ議員の方にウェイトがかかっている。

トコーソーの実現で特別区が誕生しても議員定数は現状と変わらない。特別区が4つになって現在の人口が個々の区ごとに相対的に減っても、ニアイズベターの実現度は現在と大差はないだろう。


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