「新型コロナ」第一波を教訓に活かす

第二波に対応できる柔軟な体制を構築すべき

大阪大学医学部附属病院
感染制御部 部長
朝野ともの 和典かずのり

新型コロナウイルス感染拡大に対して大阪府は、所謂「大阪モデル」と呼ばれる独自基準を策定し、休業要請等の段階的な解除に踏み切りました。しかし、新型コロナウイルス感染患者数が再び増加するなかで感染拡大の「第二波」が強く懸念されています。そこで、大阪府の専門家会議で座長を務めた大阪大学医学部附属病院感染制御部部長の朝野和典氏に、大阪府の新型コロナウイルス感染症対策の現状や、第二波に備えた体制作りについて話を聞きました。聞き手は大阪府保険医協会理事の原田佳明氏です。※当該記事はインタビューが行われた2020年7月2日時点の情報に基づいています。
原田 新型コロナウイルス感染症の現状について教えて下さい。

朝野 現在は特に東京で感染者数の増加が報道されていますが、大阪でも同じような状況が起こるのではないかと危惧しています。感染拡大の特徴は、業種によってクラスターが形成されること、もう一つは、クラスターの外側で接触があった人が新たに感染を起こしていることにあります。

各地域で感染を抑える取り組みをしたとしても、流入してくる感染者数が多い場合は、抑え込みが難しくなります。大阪でもクラスターを経験していますが、今後、感染拡大の流れをいかに抑え込めるかが焦点になるかと思います。

原田 第二波はどのような傾向になるのでしょうか。

朝野 3月~4月の時期に発生した感染拡大の「第一波」は、海外からの帰国者から感染が広がっていったのが大きな特徴です。この次に来るであろう「第二波」は第一波とは違うメカニズムで起こることが予想されます。

第二波は海外由来の第一波とは異なり、市中で広がっていく波で、大きな波を作るというよりは、継続的に感染者の微増が続くという傾向が予想されます。

今、大阪で用いられている「大阪モデル」は第一波の波を基準に作られています。そのため、第二波に対しては、大阪モデルを用いたとしても適切な指標にならない可能性があります。

原田 感染拡大に際してPCR検査数が少ないのではという指摘があります。

朝野 検査数が少なくて把握できていない感染者がいるのは事実です。しかし、重要なのは感染拡大のスピードを掴むことです。全体がわからなければ、スピードがわからないということではなく、抽出の基準が一定であれば、感染拡大状況のトレンドがわかります。我々は、今何が起きているのか、スピードを見ているのです。

国内の新型コロナウイルス感染者数の推移。7月以降徐々に増えつつある

原田 第二波に対してはどのように備えるべきでしょうか。

朝野 まずは引き続きマスクや手洗いの徹底など基本的な感染対策の周知と徹底が求められます。医療機関においては、どんな症状の患者さんであっても新型コロナに感染している可能性を考慮し、感染防止対策を行ったうえで診療を行っていただきたいと思います。

そうした基本的な対策を行ったうえで、感染拡大時にはPCR検査などを迅速に行えるような体制を今のうちに整備しておく必要があります。

また、第一波での失敗の一つは感染者を全て指定病院で受け入れたことです。大事な教訓として今後は軽症、中等症、重症と分けて対応する必要があります。

軽症者はできればホテル等での対応、中等症患者は専門病院、人工呼吸器をつける重症患者を受ける病院、最後はECMOというように症状に応じた入院体制の整備が求められます。

国民の命を守る医療機関削減策に対峙する工夫を

原田 ワクチン開発について報道されていますが、どうお考えでしょうか。

「新型コロナ」ワクチン開発をめぐる報道

朝野 「大阪産ワクチン開発」として「DNAワクチン」の開発が大きく報道されました。しかし、ワクチンの開発というものは、そんなに簡単なものではありません。

DNAワクチンに関して言えば、ワクチンの「設計図」を作るのは比較的早くできるのですが、実際にワクチンが効果を発揮するためには、いくつものハードルがあります。動物実験での確認や治験など慎重に行う必要があります。

新型コロナは新しい感染症なので、わかっていないことが多く残っています。とにかく、安全性の確保が第一で「急げ、急げ」では絶対に駄目です。少し周りが騒ぎすぎではないかと考えています。

原田 今回のコロナ禍で、改めて日本の低医療費政策の問題や、医療資源の脆弱さが浮き彫りになったと思いますが、どうお考えでしょうか。

朝野 「医療費を減らす」という主張そのものを悪いと言っているわけではありませんが、今回のような有事の際に対応できる体制がとれていなかったのは確かです。もっとフレキシブルに対応できる体制を準備する必要があると思います。

ただ、医療費とは、多くが税金ですので、「税金を投入してもいいのか」という議論になります。非常時のために、平時の医療体制をどこまで整備するのか、多面的に議論していかなければならないと思います。

しかし、明らかにわかることは「国民の命を守るには病院が必要だ」ということです。医療機関を増やすとなると、どうしても医療費を増やさざるを得ないと思いますが、反対意見を乗り越えるだけの理屈を出すことが、医療側に求められていると思います。

そういった理論的な取り組み無しに、病院を「潰す、潰さない」という議論のみを行うと、力のあるほうが勝つに決まっています。今回のコロナ禍を契機として、患者を守るための現場の工夫や提言が、我々医療側に求められていると思います。

お話を伺った朝野氏(右)と聞き手を務めた保険医協会の原田理事

原田 本日はありがとうございました。

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