新型コロナウイルスの感染拡大で長引く自粛生活から、国民は大きなストレスを感じており、心身の健康のバランスを崩す方が少なくありません。心身の健康のために必要な感動や笑い等を与えられるのが文化ですが、現在自粛による影響で、文化に携わる方々が深刻な打撃を受けています。こうした中で大阪を象徴する文化の一つである上方落語をめぐる状況等について上方落語協会の笑福亭仁智会長にお話を伺いました。
心身の健康守る文化の力 人間に必要な感動や笑いを守る
新型コロナ感染拡大のなかで、落語界をめぐる状況について教えて下さい。
新型コロナが問題になり始めた当初は「三密」という言葉もなく、繁昌亭も2月中頃までほぼ通常通りで公演を行っていました。ガラっと空気が変わったのがライブハウスでのクラスター発生からで、繁昌亭も3月から公演を自粛することとなりました。こんな時だからこそ落語が必要だと言ってくれる方もいらっしゃったのですが、自粛せざるを得ませんでした。
落語家の7割が無収入
私たち上方落語協会も所属している、俳優や歌手、演奏家、舞踊家、演芸家で構成する日本芸能実演家団体協議会(芸団協)という組織があります。この芸団協で4月に「新型コロナウイルス感染拡大防止によるフリーランスに対する公的支援に関する実態調査」を行いました(表)。
このアンケートの中で、4月の収入予想について尋ねたところ「無収入」と回答した落語家はなんと7割を超えました。俳優や、音楽家、舞踊家の方々では「無収入」の回答は5割は超えておらず、同じ芸団協に所属していても落語家が新型コロナウイルスの打撃を特に受けていることがわかりました。4月以降も「仕事が全くない」という回答も7割を超えており深刻な状況にあります。
この結果を受けて上方落語協会としても大阪府に対して窮状を訴え、経済的支援と支援事業の拡充、公演再開後の協力などを要請しました。
このままいけば、4月~5月だけでなく無収入の状況が長引くおそれがあります。実際に今後の企画等が次々とキャンセルになっており、本当に危機的な状況です。ただ、安易な公演再開はできないため、大阪府には再開にあたっての基準を示していただきたいと改めて要請しています。
奮闘中の医療従事者へ感謝 落語で元気を与えたい
仁智会長が考える文化の重要性について教えて下さい。
落語や音楽等、文化的な公演がなくなり丸2カ月となります。文化は人間関係の潤滑油と言われますが、今息苦しさやギスギスとした嫌な雰囲気を感じる人は多いのではないでしょうか。長引く状況下で、心身の健康が侵されているのではないかと思います。
普段の生活ではあまり気にすることがありませんが、人間には感動や気持ちの振幅が必要です。そうした人の気持ちを揺さぶることが出来るのが「文化の力」です。新型コロナ禍で、文化の火を絶やしてはいけません。
上方落語協会としても一人ひとりの噺家を守る取り組みを進めながら、上方落語文化の火を絶やさないよう努力をしていきます。「笑いは健康の素」と言われますが、早く皆様に笑いを届けていけるように公演再開に向けて準備をしていきます。
保険医協会の会員へ伝えたいことはありますか。
この危機的状況下で、最前線で奮闘されている医療従事者の方々には本当に感謝しています。また、そうした医療機関にマスクや消毒液、防護服等の衛生材料が不足していると聞き心を痛めています。今の時点で私に出来ることは予防で健康を保つことと思い、家族で気を付けるようにしています。
私は直接人を治療することはできません。しかし、落語を通じて人に元気を与えることはできると考えています。そうした笑いの力で、人々の健康を守る一助になればと思っています。また、公演が再び行えるようになれば、医師の先生方にも落語を聞いていただき少しでも元気になっていただければ嬉しく思います。再開後の繁昌亭に、是非お越しください。