府「福祉医療費助成」改悪で保険医協会がアンケートを実施 精神疾患等の患者から受療権を奪いかねない

大阪保険医新聞2018年3月5日号 1面より

大阪府「福祉医療費助成制度」において、今年4月1日より制度改定が行われ、改定後は、精神病床への入院が助成対象から外されます(※現対象者については3年間の経過措置あり)。大阪府保険医協会では、今回の府の制度改悪に対し、改めて精神病床入院の実態を掴もうと府内60の精神病床を持つ医療機関にアンケートを行いました。年明けから1月末まで実施し、16医療機関(回答率26.7%)から回答が寄せられました。その結果と寄せられた実態をご報告します。

「老人」・「障がい者」制度利用者では半年以上入院が8割超

今回のアンケートでは、2017年12月診療分の入院患者から各制度利用者の人数と、その入院期間を尋ねました。

その結果、「老人【87~90】」・「障がい者【80】」制度利用者の入院患者数は合計402人で、そのうち入院期間が3カ月未満の人数は16.4%、6カ月超は80.6%、12カ月超も75.6%にのぼりました。「ひとり親家庭【82】」制度利用者では、15人の入院期間が報告されましたが、86.7%が3カ月未満の入院でした。

また、「子ども【86】」制度利用者は21人で、3カ月超~12カ月未満が47.6%を占めました。

行き場を失う可能性

「福祉医療費助成制度」には所得制限があるため、制度利用者は低所得者です。意見(下欄)には、国の制度があったとしても、患者の自己負担額が増加することで入院費が支払えないケースの増加を懸念する意見が多数寄せられました。

国は精神病床入院患者が地域で生活できるようにするとの方針を示していますが、現状では地域で安心して生活できる場の確保は進んでいません。

現行制度の対象者については3年間の経過措置が設けられていますが、今後、行き場を失う人が増加することは想像に難くありません。「生活保護を利用する人が増えるのでは」との意見も複数出されました。

“精神病床入院のみ対象外”は制度の欠陥

また〝精神病床への入院〟のみ助成対象外とすることについて、制度の矛盾・欠陥であるとの指摘もあります。身体疾患で入院加療が必要になった場合も、精神疾患等があるために精神病床に入院しているという実態を無視した制度設計に怒りの声が寄せられました。

期間限定せずに再度助成を

大阪府は「通算3カ月限定」で再度助成対象とすることを継続検討するとしています。

しかし、精神病床への入院は長期化や入退院を繰り返すケースが多く「障がい者」「老人」制度利用者においては、8割超が通算3カ月以上入院をしており、当事者の困難を解消する手立てにはなりません。

大阪府には期間を限定せず、早期に再度助成対象とすることを強く求めます。 大阪府保険医協会では、引き続き「福祉医療の拡充を求める大阪実行委員会」に結集する他団体と共に運動に取り組んでいきます。

精神病床を持つ医療機関へのアンケートで寄せられた意見

Ⅰ.「老人」「障がい者」の対象者について
○ 助成制度を申請されている患者は、元来、高齢者の一人暮らしや、老老介護の方が多く、生活の基盤である収入においても低所得者所帯の方が多くおられる。そのため、助成対象外になることにより、必要な入院加療が受けられなくなる可能性が想定される。一般病棟での対応が難しい認知症や難病の患者は生活保護の申請をされる方が増えると思われる。

○ 入院が必要な身体疾患を発症した老人が認知症を合併していると、一般病院が入院を受け入れないことがある。このようなケースを精神病床で受け入れて入院治療を行うことが多くなってきている。合併疾患が多くて入院先が違うだけで助成の対象外となるというのは制度の欠陥だと言うしかない。

○ 当施設は、入院=入所(生活の場)となる、療養介護・医療型障害児入所施設になる。入所者には、医療型個別減免による負担軽減があるが、助成対象外による負担増は、日々の生活費に直接影響する。同種の施設は、他の一般病床等をもつ病院でも存在する為、精神病床への入院=入所者のみが、不利益を受けることになる。

○ 施設入所ができない重度知的障害者等の患者を大阪府などの自治体からの依頼で、やむを得ず精神病床を使用するという実態があるが、本人が利用できる施設が無い上に、本人にとっては望ましくない入院という形をとり、さらに経済的な負担がかかってしまうということに矛盾を感じる。重度知的障害者が希望する生活ができるような医療・福祉サービスの充実およびその利用のための経済保障がなければ当事者が追い詰められていくことが予想される。「老人」も同様である。
Ⅱ.「ひとり親」の対象者について
○ ひとり親世帯の重症化が予想される。生活保護に頼らざるを得なくなる。

○ 「ひとり親」制度を活用している世帯は、経済的に厳しいことが多く、また未成年の本人も年金等、経済保障が受けられないことも多いため、精神科入院が必要となった場合、さらに経済的に逼迫することが考えられる。
Ⅲ.「子ども」の対象者について
○ 自己負担額が増えることで未収金の増加が懸念される。費用面から今まで入院治療導入に向けた説明が月1000円の説明で可能であったことが困難になるため、入院治療の敬遠が懸念される。

○ 児童・思春期患者を専門とする精神病床では、今回の制度改定ですべての患者が助成対象から外れることになり、大きな影響があると思われる。
Ⅳ.3カ月限定での助成化について
○ 身体及び知的レベルにおいて障害があるため、容易に治癒・軽快レベルまで到達せず、この状態で退院させても退院生活を正常に送れず、生活が破綻する可能性もある。

○ 入院加療の必要性がある患者は、高齢者かつ身体合併症の治療を行う方が多い為、どうしても長期にわたる入院加療を要することが多い。期間限定というのは、現状にそぐわないと考える。

○ 当院では、入院期間が12カ月超の患者52人の内、約30%が10年以上入院されている。早期退院・在宅支援が望まれている昨今「障がい者」【80】・「老人」【87】の受給資格者は退院後の自宅療養が困難で施設入院となるケースが大半だ。入院中の医療費負担の増額により、施設入院も困難となるケースも増えると考えられる。

○ 精神患者の入院は長期に該当するものが多い。同じ医療であるにもかかわらず、公費が利用できないのはおかしいと思う。

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