AI導入で医療はどう変わるのか
6月11日に第7回日常診療経験交流会が開催されます。記念講演「医療におけるAIの現状と今後の展望」の講師・澤智博先生より、記念講演の聞きどころをご寄稿いただきました。
「人工知能」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。機械でしょうか?コンピューターでしょうか?また、人工知能の機能について、皆さんはどのように理解されているでしょうか。AIが将棋や囲碁で活躍しているように、何かについて深く読む能力でしょうか?未来を見通す力でしょうか?
ここで、知らず知らずのうちに、人工知能に対して「能力」や「見通す力」といった具合に、機械というよりも、人間に適用する言葉が選ばれていることにも気づくでしょう。人工知能を議論するとき、現時点で人工知能ができること、近い将来にできる可能性があること、そして、遠い未来に描く願望や恐怖が、すべて混在した形で扱われることがよくあります。
本講演では、医療での応用に的を絞り、人工知能の開発の歴史について説明します。コンピュータープログラムとして開発されてきた人工知能は、データを処理する機能について、次第にデータから学習する機能として実装されるようになり、機械学習という分野を確立するようになりました。
近年、Deep Learning(深層学習)と呼ばれる技術では、人間が機械に学習させる、といったスキーマから、人間の支援を必要とせず機械が学習し続ける、という構図を生み出すこととなりました。例えば、囲碁や将棋の世界では、人工知能同士が延々と対局し学習するという世界が展開されるようになりました。医療において、人工知能には何を学習させるのがよいのか、また、学習から得られた結果を医師はどのように扱うのがよいか、議論して行きたいと思います。
本講演で並行して議論したいのが、医療におけるコンピューターの応用についてです。日常診療で、パソコンを前にして電子カルテを操作する、という風景はありふれたものになっています。果たして、この風景は「医療とコンピューター」の完成形でしょうか。
人工知能と同様に、コンピューターはその黎明期から医療での応用が期待されてきました。しかしながら、皆さんも、既に気づいておられるように、日本製の電子カルテシステムの多くは「業務」を支援することはあっても、医療・医学の発展を支援する役には立っていません。ゲノム精密医療、ビッグデータ、IoT、データサイエンス、といったキーワードを解説しながら、医療におけるコンピューターの本来の役割についても議論して行きたいと思います。
帝京大学医療情報システム研究センター教授 澤 智博