【理事会声明】「低価値無価値医療」論文報道を受け

医療費削減のためだけに医療行為を評価するのはあやまりである
公的保険の役割を縮小・形骸化させるマスコミ論調に断固として反対する

7月の参議院選挙で医療費削減や“OTC類似薬”の保険はずしを主張する政党が議席を伸ばすなか、筑波大学の宮脇敦士准教授らのグループが発表した『「低価値・無価値医療」の提供と関連するプライマリケア医師の特徴』の調査結果を各メディアが取り上げている。

宮脇氏らの調査では、「低価値・無価値医療」を『特定の状況で患者に殆ど、又は全く健康改善効果をもたらさない医療』と定義し、10種類の医療内容の提供率を、診療所レセプトデータベースを用いて算出。その結果、「低価値・無価値医療」の提供がごく一部の医師に集中していることが判明したとし、『従来の、すべての医師を対象とした一律の教育キャンペーンや制度変更は、効果が薄く、非効率的である可能性がある』ことから、「低価値・無価値医療」を多く提供する特定の医師層に的を絞った介入が有効であると提言している。

今回の調査では、「低価値・無価値医療」が行われる要因として、公的保険制度でカバーする医療の範囲が広いことと出来高払い制度を上げている。我々は、医療費削減を主張する政党が国会で多数を占める中で、この調査結果を用いて公的保険の給付範囲縮小や診療報酬引下げにつなげられることを強く危惧している。

公的保険の給付内容(診療報酬上の評価)については、医師だけでなく保険者や学識経験者を委員に含む中央社会保険医療協議会において、医療経済的側面と科学的根拠に基づいて決められている。医療機関で提供された医療内容は診療報酬の審査支払機関でチェックされ、不適切な医療内容は査定されている。また、一部に医療機関が儲けの為に処方しているという論調があるが、現在は処方内容が収入に直結しない院外処方医療機関が大半を占めている上に、多剤投与の際の処方箋料・処方料の減算規定もある。院内処方医療機関においては、薬価差益はゼロまたはマイナスと、処方を増やすほど赤字になり得る状況であり、この論は成り立たない。

また、“軽い症状や風邪は市販薬ですませて”とのマスコミ論調が広がることも危惧される。しかし、風邪症状から始まる疾患は多岐にわたるため、自己判断で長期に市販薬を服用することは、治療の遅れや重症化につながるリスクがある。さらに、公衆衛生の観点からも、感染症か否かの正しい診断は必要であり、医療機関への受診を控えさせ、公的保険の役割を縮小・形骸化させる論調を安易に広げることはあってはならない。

我々医師は早期受診・早期発見の重要性を日々の臨床の中で強く感じており、政府が推進するセルフメディケーションにおいて、副作用や誤った服用による健康被害なども目の当たりにしている。保険給付範囲の縮小は、身体の不調や健康面の不安を抱え医師の診断の下で適切な治療を受けたいと考える国民から医療を遠ざけ、結果、重症化や生活の質の低下を招くことにつながる。また、医療は病気の根治だけでなく、つらい症状を抑え、取り除くことで患者の日常生活の維持や生活の質を向上させることも重要な目的である。我々は、患者の不安や要求に寄り添った医療を提供することで患者の健康・より良い生活を支えていることに確信を持ち、医療費削減のためだけに医療行為の是非を論じるマスコミ論調には強く抗議する。

2025年9月11日 大阪府保険医協会第21回理事会

              
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