2026年度診療報酬改定答申に対する談話

2026年度診療報酬改定答申に対する談話

2026年2月18日
大阪府保険医協会
医療活動部担当副理事長 井上美佐

中医協は2月13日総会を開催し、「令和8年度(2026年度)診療報酬改定」に係る答申を行った。
2026年度診療報酬改定は、本体+3.09%、薬価等-0.87%で全体+2.22%のプラス改定とされた。12月26日の理事長談話では、本体改定率は30年ぶりの水準と一定評価されるものの、物価・人件費の高騰や医療機関の深刻な経営悪化を改善するには不十分で、実質的にはマイナス改定と批判している。賃上げ対応の実効性にも疑問があり、基本報酬の引き上げが必要と主張。また「適正化・効率化」による診療所報酬の実質減が、閉院増加や医療過疎・医療空白の拡大を招くと強く懸念していた。実際にふたを開けてみれば理事長が予言した内容のとおりである。
 
初・再診料への配分抑制は問題
改定の具体的な算定根拠や配分の妥当性について十分な説明責任が果たされたとは言えない。特に外来医療を支える初診料の引き上げがなく、再診料の引き上げが極めて限定的であったことは、物価や人件費の上昇に直面している診療所の経営実態と大きく乖離している。地域医療の最前線で日常診療を担う医療機関にとっては、再診料のわずか1点の引き上げでは、光熱水費や委託費等のこれまで2年間の上昇分を到底吸収できるものではない。
入院基本料等が相応に引き上げられた一方で、外来分野への配分が抑制された結果、医療提供体制のバランスに新たな歪みを生じさせる懸念もある。また、この配分については10日に行われたアドレクでは「高いレベル」で決定されたとの説明にとどまった。具体的な検討過程が明らかにされないまま機械的に配分されたとすれば、中央社会保険医療協議会での議論の意義そのものが問われかねない。改定は単なる財源配分ではなく、医療政策の方向性を示す重要な指標である。
今後は、配分の根拠を透明化し、現場の実情に即した見直しを行うことが強く求められる。

「物価対応料」の新設とその実効性への疑問
2026年以降の物価上昇への対応として+0.62%(26年度+0.41%、27年度+0.82%)という枠内で機械的に按分された「物価対応料」が、急激な物価・人件費上昇に十分対応し得るのかは極めて疑問である。とりわけ診療所においては、光熱水費や医療材料費、委託費等の上昇が経営を直撃しており、初診・再診等に数点を加算するだけでは実質的な改善にはつながらない。
 また「基本診療料に上乗せする1日1回算定」では、同日再診等では複数回取れない。本来であれば、物価上昇への対応は基本診療料そのものの底上げによって恒常的に措置すべきであり、時限的・付加的な評価料で対応することは安定性に欠ける。
一方、入院点数においては一定の点数が付与されたが、それが実際に各病院の安定的な運営改善にどの程度寄与するのかは、病床機能や規模によって大きく異なると考えられる。単純な点数設定だけでは、地域医療を担う中小病院や慢性期病院の厳しい経営状況を十分に支えるとは限らない可能性がある。
 改定実施後は物価対応料の効果を速やかに検証し、外来・入院を問わず実態に即した再配分や基本診療料の引き上げを含めた抜本的な見直しを検討することが不可欠である。医療提供体制の持続可能性を確保するためには、部分的な加算措置では解決できない可能性がある。

基本診療料の底上げこそ本来の賃上げ対策
 ベースアップ評価料を何らかの理由で算定できていない医療機関においても賃上げを行っているところも多くあるため、これまでの算定の有無のみをもって賃上げへの取組を評価する仕組みは実態を正確に反映しているとは言い難い。
本来、医療機関の人件費上昇への対応は、個別の評価料による時限的な措置ではなく、初・再診料や入院基本料などの基本診療料の引き上げを通じて、すべての医療機関に公平かつ安定的に行われるべきである。評価料という形をとることで、計画や報告の届出の複雑さや事務負担の増加を招き、結果として制度の趣旨が十分に活かされないことが引き続き懸念される。

ベースアップ評価料の限界と公平性の課題
また、過去の一定期間における賃上げ実績を基準として点数に差を設けたことは、2年間のベースアップ評価料を継続したものとしての仕組みと理解しているが、物価高騰や経営環境の急激な変化に直面し従業員の賃金を上げなくてはならない医療機関の実情を踏まえたものとは言えない。今後は、過去の実績にとらわれることなく、現在および将来の持続的な賃上げを支える制度設計へと見直すことが求められる。
医療提供体制を守るためには、職員の処遇改善を一過性の措置にとどめず、診療報酬体系全体の中で位置付けることが不可欠である。

生活習慣病管理料見直し ― 前進と残された本質的課題
生活習慣病管理料の3疾患を特定疾患療養管理料の対象疾患に戻すことを求めてきた。残念ながらこのことは実現しなかったが、包括範囲や療養計画書の事務負担の改善が行われた。
療養計画書は最初から患者署名が不要となり、さらに生活習慣病と関連の乏しい管理点数が併算定できるようになる。
これらの改善は昨年3回にわたる厚労省への要請と一昨年からのアンケートや署名運動の成果であり、ご協力いただいた会員の先生方に感謝を申し上げたい。
生活習慣病管理料の3疾患を特定疾患療養管理料の対象に戻すという本質的な課題は依然として残されたままである。今回の見直しは事務負担の軽減という点で一定の前進ではあるものの、制度の複雑さそのものが解消されたわけではない。
特に生活習慣病管理料の包括評価のあり方については、日常診療の実態との乖離があると指摘していた包括範囲の見直しが行われ、悪性腫瘍特異物質治療管理料、療養費同意書交付料、傷病手当金意見書交付料、特定薬剤治療管理料などをはじめ、21項目の点数が併算定できるようになる。これは評価できるが、診療現場にとって使い勝手が十分に改善されたかどうかは、今後の運用状況を注視する必要がある。
また、療養計画書の取扱いが見直されたとはいえ、計画書作成そのものに要する時間や事務的負担は変わらない。患者の理解と納得を得ながら質の高い管理を継続していくためには、評価のあり方そのものを再検討することが求められる。
引き続き、会員の先生方の声を集約し、制度のさらなる改善と3疾患の復活に向けて取り組みを強めていく必要がある。今回の成果を一つの通過点とし、現場の実態に即した制度への見直しを粘り強く求めていきたい。

在医総管に新たな割合・件数要件 ― 提供体制への影響を注視
在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料において、月2回訪問診療をしている患者のうち重症度の高い患者の割合が20%以上という要件が示された。「また細分化するのか」。これが医療現場の偽らざる感想だろう。患者の医療・介護の状態を踏まえた適切な訪問診療の提供を推進する観点及び安心・安全な医療提供体制を確保する観点から評価する趣旨と説明されているものの、実際には在宅患者の選別を生み、フリーアクセスの阻害など在宅医療の提供体制そのものに少なからぬ影響を及ぼすものである。患者の重症度は評価する方向での要件であるべきであって、医療を制限する方向で用いることは言語道断である。とりわけ、比較的安定した状態にある高齢患者を多く診ている医療機関では、割合要件を満たすために患者の重症度、診療のあり方を意識せざるを得ない状況が生じかねない。
また、「月2回を算定する患者が一定数未満」とする件数要件が示されていないことは、現場にとって大きな不安材料である。件数次第では、小規模な在宅療養支援診療所や新規参入の医療機関にとって算定継続、つまり医療提供が困難となるおそれも否定できない。
在宅医療は、制度設計のわずかな変更が現場の提供体制に直結する。割合要件や件数要件が、結果として訪問診療の回数抑制や患者選別につながることがあってはならない。
今後は、現場での影響を注視し、在宅医療の質と量の確保に支障が生じないよう必要な見直しを求めていくことが重要である。在宅医療が地域で暮らし続ける患者を支えることである以上、現場の実態に即した柔軟な運用が強く求められる。

後発医薬品供給不安定下に一般名処方加算は2点引き下げ
一般名処方の推進は、後発医薬品の使用促進や医療費適正化の名の下で実施されてきた。しかし、現実には後発医薬品の供給不安が続き、銘柄変更や欠品対応に追われる状況が常態化している。こうした中で、安定供給体制の確立が十分に図られないまま処方箋料の一般名処方加算について、それぞれ2点を引き下げることは、現場の努力を正当に評価しているとは言い難い。
医療機関は、供給状況を確認しながら患者説明を行い、必要に応じて処方内容を変更するなど、多大な時間と労力を費やしている。一般名処方が円滑に機能するためには、医療機関と薬局の現場対応に依存するのではなく、製薬企業や流通段階を含めた安定供給体制の強化が前提となるべきである。
供給不安が解消されないまま加算を引き下げれば、一般名処方の継続的な推進にも影響を及ぼしかねない。まずは安定供給の実効性を確保し、その上で評価の在り方を検討するという順序が求められる。制度の持続性を担保するためにも、現場の実情を踏まえた慎重な見直しが必要である。

              
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