厚生労働大臣 上野 賢一郎 殿
2026年6月、厚生労働省により「健康保険法等の一部を改正する法律」が公布され、OTC医薬品との代替性が高い医療用医薬品について薬剤費の一部を保険給付の対象外とする「一部保険外療養」が創設され、2027年3月に施行される予定である。しかし、本制度は国民の医療、とりわけ皮膚科医療に深刻な影響を及ぼし、医療提供体制と国民の健康に重大な不利益をもたらすことが強く懸念される。
制度の問題点
1. 皮膚科医療の根幹である外用療法の機能不全
今回の制度では、ステロイド外用剤、保湿剤・皮膚保護剤・角化症治療剤、抗真菌剤、消毒剤が別途負担の対象となっている。特にステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎や湿疹・皮膚炎群の治療の根幹を成す薬剤であり、保湿外用薬は再燃予防、痒みの抑制、維持療法(プロアクティブ療法)に不可欠である。これらは日本皮膚科学会のガイドラインでも強く推奨されている標準治療薬であり、適切な初期治療が行われなければ症状は悪化し、慢性化して治りにくくなる。
しかし今回の制度では、一部の例外を除き、外用剤が別途負担の対象となる。負担増を避けるために受診を控えたり、市販薬で自己治療に走るなど、経済的理由で初期の標準治療が行えなくなれば、症状の悪化・重症化、慢性化、副作用の発現、医療事故などの不の連鎖が生じる。これは単なる薬剤費の問題ではなく、医療安全に直結する制度上の重大な欠陥である。
2. 国民の健康格差を拡大する制度設計と経済的負担増
標準的に使用される3群ステロイド外用剤20g(全身の皮疹)では、別途負担の対象となる薬剤費の約47%増の負担は、1週間950円、1か月4,080円、6か月では24,480円に達し、保険3割負担と比べて約1.5倍に増加する。
アトピー性皮膚炎などで推奨されるステロイド外用剤とヘパリン類似物質外用剤を併用した場合、3群ステロイド外用剤20gとヘパリン類似物質外用剤20gの併用が別途負担となれば、1週間2,130円、1か月9,130円、6か月では54,780円となり、保険診療と比べて負担は約1.6倍に増加する。
さらに、薬局・ドラッグストアで市販薬を購入した場合、標準的に使われる3群ステロイド外用剤20gの市販実勢価格は、平均値3,234円(中央値2,795円)であり、保険3割負担合計(再診料+処方料+調剤料+薬剤料)470円の約7倍にも達する。
重症アトピー性皮膚炎患者は年収が低いことが研究により示されている。物価高騰と賃金停滞が続く中で外用薬の負担増は治療中断、受診控え、重症化を確実に招き、特に子ども、高齢者、生活困窮者に深刻な影響を与える。結果として、本制度は健康格差を拡大し、国民の健康を損なう制度となる。
※3群ステロイド外用剤:ベタメタゾン吉草酸エステル軟膏0.12%、ヘパリン類似物質外用剤を1日1回各20g使用した場合を想定し、概算薬剤費を算出。
3. 制度の複雑さによる混乱と医療現場の負担増
「一部保険外療養」は制度として極めて複雑であり、患者が制度を理解できず、医療機関での説明負担が増大し、誤解によるトラブルや事務負担の増加が予想される。制度の複雑さは医療現場の疲弊をさらに加速させる。
4. 専門学会・患者団体が一致して反対している制度である
日本皮膚科学会・日本臨床皮膚科医会・日本アレルギー友の会は共同声明において、「単なる薬剤費負担の問題ではなく、我が国の皮膚科診療のあり方そのものに影響する制度であり、国民の健康に直結する重大な課題である」と強く反対を表明している。医療側と患者側が一致して反対する制度は極めて稀であり、制度の再検討が不可欠であることを示す重要な指標である。
要望事項
- 皮膚科診療を軽視・阻害し、国民の健全な皮膚科医療を損なう制度を撤廃すること。
- 受診控え・治療中断・負担格差を招き、制度の分かりにくさが診療の混乱を生む制度設計を改めること。
- 標準治療薬(ステロイド外用剤・保湿剤・皮膚保護剤等)を別途負担とする条項を撤廃すること。
- 重症例・高齢者に対する例外措置を設け、アトピー性皮膚炎の診断基準では区別のつかない湿疹・皮膚炎群に対する制限を撤廃すること。
2026年10月14日
大阪府保険医協会
医療活動部会部長 井上 美佐
皮膚科部会部長 笹川 征雄








